第5章:行く手を阻むモノ


現場にやってきたミラとニルスは唖然とした。

他よりも面積が広い部屋の一角。

扉は向かいの通路の壁に激突したのか、へこんだ無残な姿で地に落ちている。

扉がなくなり、丸見えとなったその部屋―――全体に粉塵が舞い、視界がみえづらい。

徐々に視界がハッキリとしてくると…焼け焦げた匂いが鼻につき、床には必要最低限の私物の残骸らしきものが所々にある。

まるで、戦場後の爪跡を見ている気分だ。


次の瞬間、ミラはハッとした。

部屋の中央から発せられる並々ならぬ闘気と殺気。

煙が薄らいでいくにつれて、それらを放つ人物達が明確に浮かび上がる。


―――カナンと見知らぬ黒ずくめの青年。


双方は息切れ一つなく、武器を構えている。


「…強くなられたようですね」

「そうでなければ、【あの人】を倒せないもの…!」



―――カキンッ! キン、キンッ!


目にもとまらぬ早さで、刀身と暗具、金属同士が絡み合い、激しい火花と甲高い音を奏でる。

見る者を圧倒する迫力に…固唾を呑むしかなかった。

止みそうにない戦闘の最中、カナンの茶色の瞳がミラとニルスをとらえた。


(ミラ…ニルスさん…!?)


予想していなかった…仲間と知人が現れた事に、カナンは内心驚いた。


「気になるか…あの人達が」


同時に、青年も彼等の存在に気付いたようだ。

しまった…とカナンが視線を戻すが、青年は瞬時に眼前から姿を消し、ミラ達の目の前に現れた。


「貴様…私をここにつれてきた者か」


ミラは警戒心を露わにして剣を構え、ニルスも同様に抜刀できるよう腰に手をかける。

すると、青年はスッと瞼を閉じて…ゆっくりと開けていく。

黒色だった瞳が、特徴的な文様が浮かぶ紅色の瞳へと変化しており、それはミラとニルスをとらえる。


「…なん…だ」

「これは……」


奇妙な感覚が二人を襲う。

部屋全体が歪んでいき、全身の力が抜けていってしまう。


――――ダァン、ダン、ダン!


意識がぼんやりしていき、二人の目が虚ろになりかかったその時…銃声が鳴り響く。

青年は、咄嗟に複数の暗具を投げて、振りかかる赤い光弾を弾き返す。


「チッ、外したか」


遅れてやってきたシグバールが、軽く舌打ちを鳴らす。

ガンアローを構えたまま、標的である青年を鋭利な目で見つめる。


「ミラ、ニルスさん!」


―――パァン!


カナンが両手を叩いた。

その音は木霊して、ぼぉーと立ち尽くしているミラとニルスの耳に振動が伝わっていき、遠くなっていた意識を呼び覚ました。


「…ッ! カナン…」

「僕達は…一体?」


二人は刹那の間、自らの身に何が起きていたのか分かっていない様子だ。


「二人とも、危うく幻術にかけられる所だったのよ」

「幻術…だと?」


聞き覚えのない単語に、ミラは首を傾げる。


「説明は後で…二人とも、あの人の赤い瞳を見てはダメ。さもないと、動きが封じられてしまうわよ」


カナンが視線を青年へ移す。

青年は、シグバールと静かに睨みあいをしていた。


「ボスの勘は鋭いってハナシだ。…ったく、高確率すぎるだろ」

「【13機関】の《魔弾の射手》―――とんだ邪魔が入ったものだ」

「くくっ、褒め言葉として受けとってやるよ。さーて、イタチ…参謀のお前がいるって事は、主様もご健在ってか?」


シグバールが茶化すように言うと、青年…イタチは微かに眉を潜める。


「話す事は何一つない」

「フンッ、礼儀のない男は嫌われるぜ。特に年上からはな…」


そう言うと、シグバールはシュッと姿を消した…するとどこからか、無数の光弾がイタチ目掛けて乱射される。

カナンはパッと上をみると、空間の一部が歪み、そこから上半身だけ姿を見せるシグバールがいた。

その目つきは、凶暴な魔物を射殺そうとする狩人…標的を狙う暗殺者のものである。


イタチは即座に地を蹴るや、腰に装着していた忍者刀を抜いて上空にいるシグバールに斬りかかる。

しかし、シグバールは能力を使用して、別の空間へ移動してバババッと光弾を発射する。


忍者刀で、その攻撃をキンキンッと器用に払い落すや、すかさず印をくむ。

口から炎を出して、所持していた複数の手裏剣に纏わせて、それらをシグバールへ飛ばす。


「火遁・鳳仙花爪紅(かとん・ほうせんかつまべに)!」


炎の手裏剣に、シグバールはすぐに空間移動をして別の所へ移動した直後、その位置を推測していたイタチが足蹴りをかましてくる。

足が命中して、シグバールは真っ逆様に床へ叩きつけられそうになったかと思えば、咄嗟に態勢を変えて着地した。


《あの空間を操作する能力者…かなりの使い手ね》


【13機関】とイタチが言ってたので、彼はカナンの知らないメンバーの一人なのだろう。

カナンが冷静に分析する傍ら、ミラとニルスは勝手に始まったシグバールとイタチの戦闘に言葉を失っていた。


「なんなんだ…あれは…」


戦闘を目の当たりにして、ニルスが信じられない表情で呟いた。

彼がそう言うのも無理はない―――あまりにも次元の違う戦いなのだから。

戦闘が激化していく中、このまま部屋に居続けるのは危険だと感じた。


「ミラ、ニルスさん、戦闘に巻き込まれる前に此処から離れましょう。ティポ君を探さないと」

「!…ああ…解った」


声を掛けられて、ミラはハッと我に返って了承の言葉を返した。

だが、ミラの注意がそれたその時……イタチが彼女に向かって“それ”を投げつけた。


「ミラさん!」


ニルスが叫ぶが、キラリと光る暗具は猛烈な勢いでミラへ向かってきた。



―――バシュッ



56/71ページ
スキ