第5章:行く手を阻むモノ
「ところで…あんたら、何者だ? こんな物騒な所に侵入するなんて只事じゃなさそうだな」
「こっちも仕事なんでね。安々と教えてやる事はできねーよ」
アルヴィンが疑問を突きつけると、赤髪の青年が苦笑して答えた。
「アルヴィンさん、この方達に問いたいお気持ちはよく解ります。しかし、今はミラさん達を探しに行きましょう」
「そうだよ! 早くしないと、ミラがまた無茶な事をしてしまうかもしれないし…」
ローエンとジュードの呼びかけに、アルヴィンは渋々と言及を止めた。
その横で、ドロッセルがエリーゼにある事を尋ねていた。
「エリー、貴女も一緒に帰る?」
「…ごめんなさい。私…ティポとミラと…カナンさんを助けに行きたいです」
「そう…分かったわ」
ドロッセルは、無理に引き留めようとせず、エリーゼの意思を尊重する事にしたようだ。
「失礼ですが、お名前を聞かせて頂いてもよろしいですか?」
ローエンは、大柄の男に向かって尋ねる。
「…レクセウスだ」
「レクセウスさん、不躾で申し訳ございませんが…お嬢様と街の皆様をカラハ・シャールまで警護していただけますか?
私達はこれから、旦那様の大事なお客様を迎えに行かなくてはなりません」
「…素性の知れない俺達に、依頼する事に抵抗はないのか?」
レクセウスが少し眉を寄せて、静かに聞き返した。
「いいえ。あなた方がお嬢様達に危害を加えるなら、わざわざ出口まで誘導しないはずです。私達にも、ミラさんの情報を教えたりはしないでしょう。
貴方が、私に確認の質問をしてくれた事で確信しました。あなた方が“信頼してもいい人”だとね」
ローエンは柔和な笑みで言った。
レクセウスは彼の答えに満足したのか…口元を緩めて「承知した」と簡潔な返事をした。
「じゃあ、行こう」
「ちょっと待て」
一通りの話がついたので、ジュードは先へ進もうとしたその時、赤髪の青年が呼びとめた。
「囚われていた人達は、逃走防止用の拘束具を足につけられていた。お前が探している仲間にもまだついている」
「拘束具…どんな仕組みなんだ?」
アルヴィンが間に入って質問する。
「要塞の通路のあちこちに【呪帯】っていう魔法陣が仕掛けられている。拘束具をつけたまま踏みこむと、爆発する…厄介なものだ」
「そうなると…解除キーを持つ者を探すのは時間がかかります。全体を制御している制御装置をおさえるしかありませんね」
ローエンの提案に、ジュードとアルヴィン、エリーゼは頷く。
早速、要塞の中へ入ろうとする中、ジュードは赤髪の青年に頭を下げた。
「詳しい事を教えてくれてありがとうございます。……えっと…」
「俺の名前は――アクセルだ。記憶したか?」
頭を人差し指でとんとん、と叩きながら、青年…アクセルは自らの名前を教えた。
「アクセルさん…気をつけて」
ジュードはそう言うと、仲間の後を追って奥へ進んでいった。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
ミラ達は、要塞内を移動していた。
【呪帯】のある場所を避けながら、慎重に進んでいく。
途中、警備兵と遭遇してしまう事態も起こったが……
「瞬迅剣!」
「ハッ、やらせるかってハナシだ」
同行してくれているニルスとシグバールも戦闘に参加してくれた事で、難なく倒せた。
ミラは二人の戦いぶりに目を見張る。
ニルスの剣術はなかなかのものだ。
身を守る程度、と謙遜していたが、無駄のない動きで敵に剣線を浴びせる技量は並大抵のものではない。
少なくとも、只の商人ではない…そう感じた。
シグバール…この男の武器は見た事のないものだ。
アルヴィンの愛用する武器とはまた形状の異なる飛び道具…本人曰く《ガンアロー》という物らしい。
ガンアローから放たれる赤い光弾は、襲い掛かる敵の手や足等を的確に貫き、身動きを取れなくする。
(二人が味方で心強いな…。だが…)
―――“ 敵になれば厄介だ ”
「あの…何か言いたい事でも?」
ニルスが、やや困惑した顔で尋ねてきた。
知らぬ間に、自分が彼等の顔を凝視していたのだと、彼の問いかけで分かった。
「いや…なんでもない」
そう言うと、ミラは先へ進んでいく。
通路を移動していると、シグバールが口を開いた。
「なぁ、ニルス…あんたは剣術をどこかで学んだのか? 【我流】ではなさそうだな」
シグバールの何気ない質問に、先頭のミラも耳を傾ける。
「僕の故郷では、一人前の男性は剣術を扱えるようにならなきゃいけない、というしきたりがあったんだ。僕の剣術は我流ではないけど、
特定の【流派】に属している訳でもないかな…」
ニルスが、顎に手を当てて考える仕草をしてそう答えた。
ほぉーと相槌を打つシグバール。
「で、ミラの嬢ちゃんは?」
「…特にない」
次に、話題をミラへ振ってきた。
ミラは具体的に説明せずに、簡潔な回答を口にした。
話に時間を取られる暇がないのもあるが…
「ありゃりゃ…つれない態度だねぇ」
この男に…全ては語るべきではないと思ったからだ。
彼の仲間であるレクセウスは、話をして信用してもいい男性だと感じられた。
けれども、シグバールは自分の胸の内を明かすべきでない…油断してはならない人物だと、直感的に思った。
「シグバールさん、貴方の武器は見た事のない、変わったものだけれど…どういう仕組みなんですか?」
話に便乗するように、ニルスが興味深そうに尋ねてきた。
ミラは、視線は前方へ向けつつ、ニルスの質問にシグバールがどう答えるのかを聞き洩らさないように耳をすます。
「ん~、あぁ、これは…」
―――ドガーン!
シグバールが、後頭部を掻いて面倒くさそうに答えようとした矢先、大きな爆発音が通路まで響いてきた。
「この音は…!」
「あっちですね」
ミラとニルスは、その音を聞くや話を中断して駆け出していく。
先へ走っていく二人を見ながら、シグバールは安堵したようにこう漏らした。
「ふぅ~、ヒヤッとしちまった…安易に話題は振るもんじゃねぇな」
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