第5章:行く手を阻むモノ


カラハ・シャールを出たジュード達は、タラス街道を馬を利用して駆けて行く。

道中、徘徊している魔物と接触しないように、ローエンが氷の精霊術で、魔物の動きを止めてくれる。


「ティポ…ドロッセル…ミラ…カナンさん…」


アルヴィンに支えられて、エリーゼは馬に乗っている。

移動している間も、悲しそうな表情で彼等の名前をポツリポツリと呟く。

ティポを奪われてしまい、エリーゼは精霊術を使用できなくなってしまった。

戦えないエリーゼを危険な目にあわせたくない…。

ジュードは屋敷で待つように言ったが、彼女は強く被りを振って「ついていく」と強く願ったために同行する形となった。


「…ミラ、大丈夫かな…」

「悩んでてても状況が変わるわけじゃないだろ。今は…要塞へ向かう事を専念しろ」


不安を隠せないジュードに、アルヴィンが横目で見ながら言う。

冷静そうに見えるが…アルヴィンの語る声音もどこか焦りが感じられる。

彼もまた、囚われた三人の身を案じている…その気持ちが、ジュードにも伝わってくる。


「皆さん、見えてきましたよ」


ローエンが馬の手綱を引いて、そう告げた。

ガンダラ要塞…目の前にそびえ立つ鉄の要塞に、ジュードはごくりと息を呑んでしまう。


「こりゃ、要塞っていうより『鉄の城』って言った方がいいな」

「…なんか…あまり入りたくないです」


目を細めて、率直な感想を漏らすアルヴィン。

エリーゼは、あまりにも威圧的な雰囲気に怖がっているようだ。


「確か、ガンダラ要塞は交通路の安全を確保するためにつくられたんだよね…」

「ええ…もうそんな面影はありませんがね」


ローエンはどこか遠い目で見つめる。


「で、じいさん。どうやって内通者と連絡するんだ?」


小声でアルヴィンが尋ねると、ローエンは「こちらへ」と城壁付近へ近づいていく。

周辺で、徘徊している警備兵に注意しながら、三人はローエンの後をついていく。


「ジュードさん、あの通風口の内壁を、一回、二回、二回と叩いてください。その後、三回、一回と返ってきたら手筈が整っている合図です」


ジュードは小さく頷いて、ローエンの指示通りに内壁を叩く。

すると、内側から三回、一回と返事が返ってきた


「手筈は整っているようですね、いきましょう」


ジュード達は、通風口を通って要塞内部へ潜入した。

通風口の出口がみえ、まずローエンが降りて、それからジュード達も降りていく。

最後に、エリーゼが降りる際、アルヴィンが彼女を両手で抱き止めた。


「…ありがとうございます。アルヴィン」

「いいって事よ」


「…! アルヴィン、エリーゼ…!」


突然、ジュードが驚いた声を出して名を呼んだ。

どうしたんだ、とアルヴィンが振り返るや、彼もまた大きく目を見開く。


「お嬢様…!」

「ああ、ローエン…助けに来てくれたのね!」


なぜなら…反対側の出口のところで、囚われの身のドロッセルと街の人達がいたからだ。


「これは一体…」

「こちらの方々が、お嬢様と市民の人達を誘導してくださったのです」


ラ・シュガル兵の身なりをした内通者が、ローエンに説明する。

ふと視線をずらすと、赤銅色のウェーブがかった短い髪の大柄の男性と、赤いつんつんとした髪型の細身の青年が、ジュードとアルヴィンの視界に入る。

どうやら、彼らがドロッセル達を逃がしてくれたようだ。

すると、二人を追い越すように、エリーゼが通り過ぎていき、ドロッセルに抱きついた。


「ドロッセル……よかったッ!」

「エリー…心配かけてごめんね」


ドロッセルが無事な様子を見て、安堵したのか、エリーゼはポロポロと涙を流す。

ほら、泣かないでと…ドロッセルは優しく彼女の背中を撫でてあげる。


「あの…ミラとカナンさんは?」


ジュードは助けられた人々を見渡す。

けれども、二人の姿は見えない。


「【ミラ】って金髪の女なら『仲間を助ける』って言って、要塞の奥へ行ったぞ」


赤い髪の青年が親切に教えてくれた。


「そうですか…ありがとうございます」


やはり…というか、予想通りだと思った。

形はどうであれ敵地にいるのだ…ミラがみすみすこの機を逃す訳がない。

顔を少し俯けて、不安の色が隠せないジュードに対し、大柄の男性が口を開いた。


「…彼女には、我々の仲間と囚われていた商人が同行している」

「えっ…?」

「商人の方は解らないが…我らの同胞の腕は確かだ。下手な真似をせねば、やられる心配はない」


それを聞いたジュードは、少しだけ安堵した。

ミラ一人だけなら心が落ち着かないが、傍に人がいるなら…不安が軽減する。



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