第5章:行く手を阻むモノ
その挑発的な言葉に、ジランドは顔をひくつかせる。
「ハハッ、何を言うかと思えば…おふざけはほどほどにして…」
「貴方も…偽りの仮面を剥がしたらどう? そんな不自然なお芝居似合わないわよ」
カナンがそう言った途端、ジランドの顔は一変した。
「そうですか…じゃあ言葉に甘えて、素で話させてもらおうか、な!」
忌々しそうに口元を歪めると、カナンの胸倉を掴んで持ち上げる。
カナンは動じることなく、豹変したジランドに冷めた視線を向ける。
「下手にでてりゃ、いい気になりやがって…自分が今は【捕虜】だと言う立場を理解してねぇみたいだな、あっ?」
「その捕虜の言葉通りに、本気で本性をさらけ出す貴方もどうかと思うけど?」
さらりと揚げ足を取ると、顎をぐいっと掴まれて鋭い眼光で睨みつけられる。
「その減らず口…今すぐ黙らせてやってもいいんだぞ」
ドスの聞いた脅し文句を浴びせながら、叩きつけるようにカナンを床に倒す。
「女を黙らせる手段なんざいくらでもある。なんだったら…この場で実践してやろうか」
ジランドは懐からナイフを取り出して、カナンの首元に軽く押し当てる。
そこから滑らせる様に、カナンの纏う服へ移し、胸元部分に切れ目を入れた。
「間近で見りゃ、上玉じゃねぇか…あの黎明王を骨抜きにしちまうのも頷ける。せいぜい楽しませてもらうのも一興…」
「何が一興だと?」
突如、聞こえてきた第三者の声。
ジランドはその声を聞くや焦った様にバッと振り返ると…壁に背中を預けて、腕を組んでいる狐の面を被った男が立っていた。
「こ、これはこれは…“ヤクモ殿”、いつからそちらにいらしたのですか…?」
急に礼儀正しい文官の口調へ戻ったジランド。
「ジランド、その者は俺が尋問する予定のはず…許可なく手出しした理由をこちらとしても説明してもらいたい」
「い、いえ…ナハティガル王が直にカナン王妃とお話をしたいと仰られましてですね!」
“ヤクモ”と名乗る人物に対して、ジランドはかなりの低姿勢だ。
その態度が演技ではなく、本気で恐れている…。
必死で弁解しようとする行動と、ジトリと額から汗を滲ませているのを見て、地べたで倒れているカナンはそう思った。
「その命を下したラ・シュガル王が直に訪れる。至急、研究室へ来てくれ…とお前の部下が言ってたぞ」
「わ、分かりました…。それでは、私はこれで…」
ジランドは、起き上がるやそそくさと部屋から出ていった。
足音が遠のいていくのを見計らうと、ヤクモは上半身を起き上がらせたカナンへ視線を向ける。
「随分と…恐れられているのね。あの人に何か仕掛けたの?」
「さぁ? あの男が勝手に避けているだけでしょう」
とぼけるように言うヤクモに対し、カナンはふーんと疑わしい目付きで言葉を返す。
「…で、今度の尋問は貴方がするのね…“イタチ君”」
そう言われるや、ヤクモ…もといイタチは仮面を外した。
「いずれ、あうとは予期していたが…まさかこういう形になるとは思わなかった」
「私もよ。ラ・シュガルがヴァンスと繋がっていたとは、ね…」
黒と茶色の瞳が交り合う。
両者の間に友好とは言い難い、緊張した空気が漂う。
部屋の外で待機している警備兵もまた、その見えない気圧を感じ取ったのか、全身をカタカタと小刻みに震わせていた。
「アンジールさんには、再三この世界から離れるように警告はしておいたが…やはり、あなた方の行動は制止できなかったか」
残念だ…と最後に静かに呟くイタチ。
「他人事のようにいうけど、そのアンジールを【結晶華】にしたのは…紛れもなく貴方達でしょう」
「否定はしません。だが、あなた方は我が主の居所を知れば、危害を加えかねない。そのために…あの“二人”を守護においた」
イタチは、腕を組んで平静な態度を崩す事無く言う。
「そうね…貴方はヴァンスの右腕。主を狙う敵を退ける事は至極当然の事よね」
カナンは厳しい表情で、イタチを見上げる。
「なら…私も、大事な仲間を傷つけたあなた達を一発打ん殴らないと気が済まないわ」
しっかりとした口調で、凛とした目でカナンは言葉をぶつけた。
その直後、カナンの両手を拘束していた縄がブチッと切れた。
瞬時に、イタチは暗具を持って詰めようとしたが…カナンは床を足を使って高く跳躍してその一撃をかわす。
クルリと一回転しながら、両手に双剣を取り出し、後方へと着地する。
「やはり、拘束を解いていたか…」
もし、あのままジランドが彼女に手を出そうとしていれば、間違いなく首が飛んでいた。
イタチはそう分析しながら、両手に複数のクナイを構える。
「貴女と戦うのは本意ではないが…仕方ない」
「こちらも…全力で行かせてもらうわ」
―――キィイインッ!
その言葉を合図に、二人は凄まじい速度で接近するや、刃を交えた。
そして…部屋中に、幾度となく金属音が鳴り響いていく。
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