第5章:行く手を阻むモノ


カナンがいない間、ミラ達はシャール家の屋敷で、今後の事を決めていた。

しかし、イル・ファンに行くためには、難攻不落と言われるガンダラ要塞を抜けなくてはならない。


「…ミラは『押し通す』って言ったんですよ」

「ハハハ…ミラらしいわね」


エリーゼが小声で教えてくれた事に、カナンは苦笑いする。


「幸いにも、クレインが手筈を整えてくれる事になった」


ミラが言った事に、カナンは意外そうな表情になる。


「クレインさんが? …私達に協力して大丈夫なのかしら」

「領主様曰く、もともとナハティガル王の政策には批判的だったらしいぜ。だから俺達に味方してくれるってよ」


補足するように、アルヴィンが説明してくれた。

クレイン自身が、人体実験の現場を諸に体験したのだ。あの一件で非道な行いを見過ごせないと判断したのだろう。


「クレインさんは、部下をガンダラ要塞に潜ませるって言ってた。暫く時間がかかるから、もう少し街に滞在する事になりそうなんだ」

「成程ね…分かったわ」


ジュードの言葉を聞いて、カナンは納得したように返事した。


『ドロッセル君とお話できるんだよー』

「うれしいね、ティポ」


エリーゼとティポは時間に余裕ができたので、ドロッセルとまだ一緒にいられる事が嬉しいようだ。

さらに、クレインの好意で都合がつくまで屋敷に泊めてくれる事になった。


「立て続けに騒動に巻き込まれて、皆疲れただろう。今日は各自で休息を取ろう」


ミラがそう告げると、自由行動をとるために解散となった。

各自散り散りになるのを見届けるカナン。

そんな中、ミラもその場に留まっていた。


「ミラは広場に何か用があるの?」

「…正確には君にだ。カナン」


ミラは真剣な表情で、カナンと向き合う。


「あの微精霊達との会話…すまないが、聞こえていた」

「…そう」


普通の人には分からない言語が、精霊の声が通じるミラには筒抜けだったようだ。

カナンは特に動揺する様子もなく、普通にその一言を返す。


「アンジール殿は…なくなってしまったのか」

「いいえ。肉体は喪失したけれど…エクレシアにとって、それは人の世界でいう『死』に相当するものではないの」


『命の結晶華』とは、重篤な命の危機に瀕した際に自らの魂と力を宿す、所謂「よりしろ」のようなもの。

エクレシアの場合、結晶華となると長い年月をかけるか…もしくは同族の『力』を注ぐことで、喪失した肉体を再構築させる事ができる。


「だから、アンジールの結晶華を見つけ出せれば、私の力を彼に注いで元の姿に戻す事が出来る」

「そうか…難儀な事だが、希望は消えていないのだな」


カナンの説明を聞き、ミラは口元を緩めて安心した顔になる。


「…心配してくれるの、アンジールの事?」

「大切なものを失うのは辛い。ノーム以外の四大を失い、初めて人のいう『悲しみ』を、私は直に味わった…。君にはそんな思いをさせたくない」

「ミラ…」


「ふふっ、こんなふうに感傷的になってしまうのは…君とジュード達の影響だな」


ミラは微笑すると、背を向けて歩きだす。


「私は少し街を廻ってみるつもりだ。カナンはどうする?」

「そうね…屋敷へ行こうと思う。少し疲れちゃった」


苦笑してそう言うと、カナンはミラと別れて南西地区へ向かった。



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