第5章:行く手を阻むモノ


カラハ・シャールの街に戻ると、クレインは屋敷へジュード達を迎え入れた。


「ありがとうございます…皆様のおかげで、徴収された民を奪還する事が出来ました」


クレインは、深々と頭を下げて御礼を言う。


「私からも御礼を申し上げます。兄と街の人達を助けていただき、ありがとうございました」


同じく、ドロッセルもジュード達に頭を下げた。

囚われていた兄が無事に帰還した数十分前、彼女は涙を流して喜んでいた。

その恩人が、一度助けてもらい、親しくなった者達だからこそ、一層感謝の念が強いのだ。


「いえ、皆が無事で本当によかったです」


ジュードが少し恥ずかしそうに頬を染めて、言葉を返す。


「ところで、シャール卿…休んだ方がいいんじゃないか? 囚われた上に実験されて、マナを相当消費しただろ」


体調を気遣ってか、アルヴィンがそう言うとジュードも同調するように頷く。

それに対して、クレインは緩慢に首を左右に振る。


「お気遣い嬉しいです。ですが、体調は悪くないんです」


胸に手を当てて語るクレインの顔色は、事件前同様に健康的なものだ。


「あの時…カナンさんが微精霊が解放した現場を間近で見てから、不思議と身体が楽になっていきました。まるで彼女が癒してくれたみたいだ」


穏やかな声音で言うクレインの言葉に、ジュードはハッとする。


「マジで…実はさ、俺も同じなんだよ。あんなに戦った後なのに、疲れがきてねーんだ」


アルヴィンが口元をあげながら、左手をぐーぱーと握ったり、開いたりする。


「優等生はどうだ?」

「そう言われると…今、僕も実感しているよ」


俄かに信じられないけれども、ジュード自身も身体が癒されている事に初めて気付いた。


「カナンさんは…王妃様で天使で…すごい人だったんです!」

『僕達に“元気のもと”をおくってくれたんだよー』


【エクレシア】―――カナンは、特殊な少数種族だと言っていたのを、ジュードは思いだした。

医学校にあった文献でも、そういう名の部族が存在している等、見た事もない。

でも、ミラ…『マクスウェル』が女性であるという事実もつい最近になって分かったのだから、世の中には未だ知られていない種族もいるのだろう。


「エクレシア…これ程までの癒しの力をもっているとは…」


ミラが感慨深そうに小声で呟いた。


(ミラは、【エクレシア】について何か知っているのかな…)


ニ・アケリア以降、カナンと親しくなったのも、その事が密接に関わっているかもしれない。


…妖精の様な煌びやかな光翼

…魔物や微精霊と意思疎通できる能力

…強力な癒しの力


万人とはかけ離れた『力』―――それをもつ彼女は人とは異なる存在である気がしてならない。


(そう…「ミラ」のようで違う…存在)


漠然とした一つの可能性が頭に浮かぶ。

まだ、証拠がないけれども…直感が限りなく確定に近い答えに告げている。


「で…その噂の張本人で、俺の雇い主はいずこにいったんだ?」


アルヴィンが視線を左右に流しながら疑問を口にした。

話の中心となっている人物がいない事に、ジュードを含めた他の者達も気付く。


「カナンさんでしたら…先程、気分転換をしに行くと外出されましたよ」


ローエンが言うと、アルヴィンは腕を組んで考える仕草をする。


「そういや…あの微精霊の集合体と何してたんだろうな」


そういえば…カナンは、微精霊と特殊な言語で会話をしていた。

ミラは会話を聞いていたのか…ちらりと彼女に視線を向ける。


「…カナンはそっとしておいてやれ。緊迫した出来事が多かったのだ。息抜きも必要だろう」


意外な言葉をミラが口にした事に、ジュードとアルヴィンは目を見開く。


「なんだ?」

「いや…ミラから、そんな回答が返ってくるとは思わなくって」


アルヴィンが素直に言うと、ミラは失礼だ言わんばかりに眉を顰める。


「心外だな。私が気遣いができないと言いたいのか」

「…つーか、大抵、自分の意見を押し通すだろ。あんた…」


さらりと突っ込むアルヴィンだが、ジュードは「もうやめなよ」と小声で囁く。

ミラは何か言いたそうな顔だが、敢えて追求せずに、別の話題を切り替える事にした。



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