第5章:行く手を阻むモノ


「皆、攻撃を止めて!」


カナンが突如、大声で指示してきた。


「えっ…?」

「…ってなんだよ、いきなり!」

「カナンさん、どういう事ですか」

「あの…」『なんかの作戦?』

「何故止める、カナン!」


全員に困惑と動揺が走り、その訳を問う様に視線をカナンに向ける。

カナンは無言のまま、真っ直ぐその生物を見つめる。

持っていた武器をおろすと、一歩ずつ近づいていく。


「カナン、あぶな…!」

「待って、ミラ!」


駆け出そうとしたミラをジュードが制止させる。

発光する生物を目の前に、カナンは臆することなくそっと手を差し伸べる。


《つらかったでしょう。でも…もう大丈夫…。私の【力】でよければ…》


聞き覚えのない言語を発するカナン。

その表情は優しく、傷ついたものを慈しむように笑みを浮かべている。


《あなたを…自由にしてあげる》


そう言って、カナンが両手で生物に触れる。

すると…その生物はボロボロと原形が崩れていき、ホタルの様な綺麗な粒子となって拡散していく。


「おお…これは…」

「きれい…」

『すごーい! きらきらして宝石みたいだぁ~』


その美しい光景に、ローエンとエリーゼは感嘆して、ティポははしゃぐ。


「これは…魔物ではなかったのか…」

「微精霊の集合体だったんだよ、ミラ」


ジュードが優しい声でそう告げると、ミラは神妙な面持ちで剣をしまう。


「私とした事が…危うく守るべきものを手にかけるところだった」

「カナンさんのおかげだね…」


そう言って、ジュードはカナンの方に視線を向けるが…その目に映ったものに驚愕してしまう。

彼と同じく、ミラを除く全員もその光景に気付いて目を見開いているようだ。

微精霊達が、カナンの周囲を舞う様に取り囲み、彼女は彼らと会話している。

その背中に…薄い紫色の光を帯びた羽が生えていたのだ。


《ありがとう。エクレシア様》

《どういたしまして。ところで、私に話したい事って…》


微精霊と何を話しているのか、ジュードには全然分からない。

けれども、微精霊と…光翼の天使が戯れる幻想的な光景に目を奪われてしまう。


(あの時みたものは…【アレ】だったんだ)


イル・ファンを脱走した時、船に飛び移る際にみたカナンの背中がキラキラと光っていた。

あれは、目の錯覚ではなく光翼の輝きが薄らとちらついていたのだ。

空高く飛んでいく微精霊達を見送り終えると、カナンはふぅと息をついて、ジュード達の方に振り返る。


「お待たせ。ごめんなさい、突然大声でって…皆、どうしたの?」


口をぽかーんと開いたり、見惚れていたり、静かにこちらを凝視している面々に対し、カナンはきょとんとしていた。




【解放されしモノ】




「カナン、それが君のエクレシアとしての“証”なのだな」


ミラが薄らと笑みを浮かべて発したその言葉で、カナンはハッと後ろをみた。

羽が具現化している事に、あちゃーと頭を片手でおさえる。


「綺麗だよ、君の羽は…」

「…えっと…ありがとう」


純粋に感想を言うミラに対し、カナンはぎこちなく笑みで返すしかなかった。

ローエンが場の空気を読みとり、早く洞窟内からでましょうと気を利かせて言ってくれた事に、カナンは内心感謝した。

道中、エリーゼとティポに質問攻めにあったものの、無事にカラハ・シャールへ戻れた。





【つづく】

37/71ページ
スキ