第5章:行く手を阻むモノ
カラハ・シャールをでて、南のクラマ間道を進んでいく。
「しっかし、ラ・シュガル王に直に反抗するなんて、シャール卿も無茶なことするな」
間道を通っていると、アルヴィンが思った事を言う。
「私もお止めしたのですが、ああみえて頑固な方で…」
ローエンが憂いのある表情で答えると、ティポが間に入ってきた。
『もー! ドロッセルのお兄さんを悪く言わないでよ』
「そうです…クレインさんはいい人です!」
「分かっているさ」
批判するティポとエリーゼに、アルヴィンは苦笑する。
「そうね、まだ若いのに民を取り戻す為に自ら敵のアジトへ乗り込んでいったもの…そういう行動をする貴族ってなかなかいないわ」
「はい。民の自由と平等を重んじる立派なお方です。あの方ほど、民を大切にする領主はいません」
カナンの言葉に同調するように、ローエンはクレインの事を語る。
なんでも、二年前に行く当てをなくした彼を、クレインは執事として雇ってくれたらしい。
ローエンにとって…クレインは居場所を与えてくれた恩人でもあるのだ。
「クレインさんは…ローエンにとって、大切な人なんだね」
「はい。必ず、助け出してみせます」
強い意志を瞳に宿して、ローエンは先頭に立って誘導していく。
『……気をつけろ』
その時…耳元に誰かが囁く声がした。
「ん…?」
「どうした、カナン」
「ミラ…今、何か言った?」
「いいや、私は喋っていないが…」
小首を傾げるミラに、カナンは小さく被りを振る。
「そう…それなら気のせいかな」
「おーい、二人とも進むぞ」
「ああ、分かった。カナンも行こう」
アルヴィンの呼び声に、ミラは先に進んでいく。
カナンはちらっと後ろを振り返るが、すぐにミラ達の後を追った。
移動中、襲い掛かる魔物を倒していく。
そこで、ローエンが“単なる執事”でない事が判明した。
「頭を冷やしなさい! 【ブルースフィア】!」
敵の頭上に巨大な水球を発生させ、複数の魔物を蹴散らした。
敵が接近しても、細身の剣で切り払い、前衛で戦うミラとジュード、アルヴィンの援護をしていく。
(あの無駄のない動き…相当戦闘慣れしている)
カラハ・シャールで、ラ・シュガル兵を拘束した時の巧みな知略と高度な術…若い者達についてくるだけの体力。
おそらく…クレインのもとへ来る前、ローエンはどこかの組織か軍に属していた可能性が高い。
頭でそう推測しながらも、カナンは左右から攻撃してくる魔物を双剣で斬り倒す。
「お見事です。カナンさん」
「いえ…それほどでも」
ローエンの賛辞に、カナンは謙虚な言葉を返す。
「ローエンさんも凄いですね。さっきの精霊術も…並大抵の人では扱えないわ」
「私も、まだまだ若い者に負けるつもりはありませんからね」
片目を閉じて言うその仕草は、茶目っ気があってにくめない。
「私も…まだまだ成長できるかしら」
「ええ、できますとも。貴女の様な女性はこれから一層美しくなりますよ」
「あら、お上手ね」
ローエンが、過去にどんな事をしていたのかは分からない。
でも、本質的に悪い人ではない。それは間違いない。
もし、人として生まれ変われたら…こういう年齢の重ね方をしてみたいと思った。
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