第5章:行く手を阻むモノ
「お前らは…手配書の!?」
その時、街を巡回していたラ・シュガル兵の目がカナン達をとらえた。
「まずいわね…」
「往来で堂々としすぎたか」
「見つかる前に街を出ていたかったが…致し方あるまい」
カナン達は即座に応戦の態勢を取る。
三人のラ・シュガル兵が武器を構えて、とらえようと近づくが、双方の間に割り込むように、ある人物が悠然と歩いてきた。
「ローエンさん?」
その人物は、シャール家の執事のローエンだった。
「南西の風、二……いい風ですね」
空を見上げて、ローエンはポツリと呟く。
「どうしてここに…」
「この場は、私が」
驚く一行に対し、ローエンは穏やかに微笑んで小声で囁いた。
カナンの視線が彼の手に向く。
その手には、小型のナイフが三本握りしめられている。
「おい、じいさん! こっちを向け! 何を企んでいる!」
一人の兵士が怒号をあげると、ローエンは振り返って、同時にナイフを空中高く投げた。
「おっと、こわいこわい」
ローエンは肩をすくめながら両腕を持ちあげる。
「おや? 後ろのお二人、陣形が開き過ぎてはいませんか? その位置は、一呼吸で互いをフォロー出来る間合いではありませんよ?」
武器を突きつけられているにも関わらず、落ち着き払った声で兵士二人に話しかけた。
兵士二人は顔を見合わせて、何故かアドバイス通りに陣形を縮める。
「貴様……余計な口をきくな!」
「そしてあなた。もう少し前ではありませんか? それでは、私はともかく後ろの皆さんを拘束できません」
ローエンは気にする様子もなく、前にいる兵士にそう指摘した。
兵士はふんっと鼻で笑い、逆らう様に数歩後退した。
「いい子ですね」
ローエンが笑いながら呟く。
その時、上空から先程投げた三本のナイフが、兵士を囲う様に石畳の隙間に刺さった。
すると、三本のナイフが発光して直線を結んでいく。直線で結ばれた三角形の陣が出来上がり、その範囲にいた兵士三人を拘束した。
「うぐっ…これは!」
「う、動けない…」
「では、これで失礼いたします。皆さん…こちらへ」
兵士達の足止めをしているうちに、ローエンの誘導で広場を後にした。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
再び南西地区のシャール家の屋敷前まで、ローエンに連れてこられた。
「皆さん、ご無事で何よりです」
『ローエン君、すごいー! 怖いおじさんたちもイチコロだね!』
ティポが、ローエンの実力を大絶賛する。
「いえいえ。イチコロなど、とてもとても。私程度ではただの足止めです」
「いやいや、大した腕前だよ。じいさん」
謙遜するローエンに、アルヴィンも労いの言葉をかける。
「助かりました。ありがとうございます。えと…ローエンさん」
「ローエンで結構ですよ」
頭を下げて御礼を言うジュードに、ローエンは名前を呼び捨てでいいと言う。
「それで何か用があるんだろう?」
「おや、直球ですね…。話が早くて助かります」
ミラが問いかけると、ローエンは真面目な顔つきになる。
「実は皆さんにお願いがあります」
「…その様子だと、クレインさんに何かあったんですね?」
カナンが目を細めてそう言うと、ローエンは一瞬だけ目を見開くが、「はい」と肯定の返事をする。
「先程、ラ・シュガル王が屋敷に来られ、王命により街の民が強制徴用いたしました」
「ナハティガルが来ていたのか…!?」
驚く声を出すミラの横で、カナンはハッとした表情になる。
先刻、馬車に乗る壮年の男性が頭をよぎった。
「しかし、国王自ら出向いてくるとは…裏がありそうだな」
アルヴィンが顎に手をやり、考え込む仕草をする。
すると、ジュードがある可能性が思い浮かんだのか、まさか…と口を開く。
「…人体実験をするつもりかもしれない」
「ああ…十中八九そうだろう」
ミラも同じ答えに辿り着いたようだ。
「皆さんの話を聞いて民の危機を感じた旦那様は、徴用された者達を連れ戻しに向かわれました。しかし、ナハティガルは…彼は反抗者を
許すような男ではないのです。この機に乗じて、旦那様を『反逆者』として始末するやもしれません」
ローエンは、まるでナハティガルの性格を熟知しているように、苦々しく言う。
仕えている主の身を本気で案じているようだ。
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