第5章:行く手を阻むモノ


カナン達は、自由都市【カラハ・シャール】へ辿り着いた。

サマンガン街道とタラス街道を繋ぐ交通の要所として、観光客も多い華やかな街だ。


「賑やかな街ね」

「すごい…人がたくさん…」


見た事のない街とたくさんの人の賑わいに、エリーゼは目を白黒させている。


「初めてきたけど…想像と実際に目にするのとじゃ違うね」


ジュードも街を眺めながら感想を漏らした。

彼もまた、はじめて訪れた街に興味があるようだ。

一方、ミラの方は厳しい表情を浮かべている。


「…どうやら、この街にも監視が及んでいるみたいだ」


往来に兵士が所々に立っていて目を配っている。


「…一休みって訳にもいかなさそうね」


幸い、出入りする人が多いためか、兵士達はこちら側に気付いていない。


「どうするの?」

「こういう時こそ平静を装うんだよ。優等生」


アルヴィンはジュードの肩を叩いて片目を閉じて言うと、丁度すぐ横にあった近くの露店に目を向けた。


「…おっ、この店、なかなか良い品が揃っているな」

「いらっしゃい! どうぞ見ていってくださいよ」


中年の男性店主が愛想良く声をかけてくる。

アルヴィンのさりげない演技に乗じて、カナン達も露店の商品をみる。

骨董品を取り扱っているようで、一般の茶器から中には高値の陶器まである。


「骨董か…ふむ」


骨董品に関心があるのか、ミラは腰を屈めて並んでいる商品を観察している。


「何か、街のあちこちが物騒だな。兵士がやたらと目光らせてるけど」

「ええ、首都の軍研究所にスパイが入ったらしくてね。王の親衛隊が直々に出張って来て怪しい奴らを検問しているんですよ」

「そりゃ、迷惑な話だな~」


世間話を装って、情報を聞き出しているアルヴィンの演技力はなかなかだ。

ジュードはその話題になるや、若干顔を強張らせてしまっている。

ミラはそんな事すら耳に入っていないのか、骨董品に夢中になっているようだ。

三人を横目で見つつ、カナンは兵士の動きを観察する。


(あっ、入れ替わった…時間毎に交代制にしているみたいね)


そう推測しながら、どう行動すべきか思案していると……


「きれいなカップ…」


エリーゼが、他の女性客が手に取っていたカップを眺めて呟くのが目に入った。


「まあ、貴女もこれが気にいったの?」


カップを持つその女性客が、エリーゼに微笑みかける。

栗色の長い髪を頭の後ろで束ね、派手でない華美な服装の育ちのよさそうな人だ。


『でもこーゆーのって高いんだよねー』

「あら、可愛いお友達ね」


ティポを見ても驚かず、普通に接している。

カナンは、その女性と連れの老紳士に視線がいく。

老紳士が、それに気付いたのかニコリと笑いながら会釈してきたので、こちらも返すように会釈する。

すると、店主がその女性客に商品の説明をし出す。


「お客様、お目が高い! そいつは『イフリート紋』が浮かぶ逸品ですからね」

「まあ、『イフリート紋』…イフリートさんが焼いたのね!」


女性は説明を聞いて顔を綻ばせるが、【イフリート】の名に反応したミラが横からカップを取ってしまった。

あっ…と呆然とする女性と店主をよそに、ミラはそのカップをマジマジと見つめ、指先で器用に回しだす。


「ミラ、勝手に人が手にしている物を取ったら失礼よ」


カナンが注意すると、ミラはカップを回すのをやめて女性に返した。


「すまないな。だが…それはイフリートが焼いたものではない」

「違うんですか?」

『どうして分かるの~?』

「イフリートは、秩序を重んじる生真面目な奴だ。こんな奔放な紋様は好まない」


エリーゼとティポが疑問を口にすると、ミラはズバッと断言した。


「ほっほっほ、面白いですね。四大精霊をまるで知人のように」


老紳士が穏やかに笑いかける。


「知人というか、私の世話係だ」

「ミラ、そういう話はちょっと…」


ジュードが小声で窘める。

時折、場の空気を読まずにずれた発言をしてしまうのがミラの困った所だ。

だが、老紳士はミラの言葉に関心を払わずに、女性から受け取ったカップを眺めていた。


「確かに、本物のイフリート紋は、もっと幾何学的な法則性をもつものです」


次に、カップを収めていた箱を手にとって、裏側を見てみると…


「おや、このカップが作られたのは18年前のようですね?」

「それが何か…?」


店主が訝しげに眼を細める。


「おかしいですね。イフリートの召喚は、20年前から不可能になっていませんか?」


それを聞いた店主は、うっ…と痛いところをつかれたのか顔から脂汗を流している。

どうやら、イフリート紋のカップは偽物で確定のようだ。


「残念、イフリートさんが作った物じゃないのね…」

「そ、そうなりますでしょうか…」


ぎこちない笑みを浮かべる店主。

あの様子だと、店主自身もカップが偽物だと区別できていなかったと思われる。


「うーん…でも頂くわ。このカップが素敵な事には変わりはないもの」


女性はニコリと微笑んで、カップを購入する事を決めた。


「は、はい。……お値段の方は勉強させていただきます…」


店主は、危うく偽物を売ってしまおうとした後ろめたさがあるのかカップを特別価格にした。



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