第5章:行く手を阻むモノ
「…カナン。それは…真か?」
ジャオは困惑した表情で尋ねると、カナンは首を縦に振る。
「それに、エリーゼの頼みでもあるから。この旅でエリーゼが何をしたいのか…じっくり見極めてもらわないとね」
「カナン…さん…」
エリーゼは大きく目を見開く。
「ジャオさん、貴方が何故この子を匿っていたのか深くは追求しない。でも『保護する』のと『束縛する』のは意味が違う。
貴方なら分かっているはずよ」
「……仕方ないんじゃ。娘っ子は…守らねばならんのだ」
ジャオは、大槌を構えると再度言った。
「さあ、娘っ子。帰ろう…その者達といても安息はないぞ」
「……イヤ…!」
エリーゼは、隠れていたカナンの背中から出てきて、真っ直ぐな目で拒絶の言葉を口にした。
「…カナンさんも…ミラもジュードもアルヴィンも…友達って言ってくれた。仲間って言ってくれたもん!」
『もう寂しいのはイヤだよー。独りぼっちに戻りたくないよー!』
ティポも混じり、彼等は今まで溜めこんできた事を吐きだした。
その悲痛な叫びに、ジャオは顔を俯ける。
「ねぇ…アルヴィン、ちょっといい」
耳元に伝わる…微かな小声。
ジュードがこめかみに指を押し当てて、アルヴィンに何か話している。
(…なるほど)
カナンは周囲を見渡すと…彼が何を意図しているのか察した。
「ワシも連れて行くのは本意ではない。…許してくれ」
どうやら、ジャオは力づくでも連れていくようだ。
薄らと瞼を開けて、大きく歩を踏んでこちらへ近づいてくる。
「…ったく、しつこい奴は嫌われるぜ」
アルヴィンが、カチャッと銃を構えた。
「やめておけ。そんなもんでワシに敵う筈が…」
―――ダンッ、ダンッ!
二発の銃声が樹海に鳴り響く。
アルヴィンが狙ったのは、ジャオではなく…彼の頭上に伸びた樹。
メキメキ、と音を立てて樹は折れてしまい、落下していく。
その下には生えていた妙な色のキノコに、落下してきた樹が衝突した。
ブワッとキノコの胞子が大量に噴出し、辺りを覆い尽くす。
「口を押さえて!」
ジュードの合図に、全員は口を塞ぐと出口へ駆け出して行った。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
胞子が薄らいで、視界がハッキリし出した頃、ジャオはカナン達が去っていた方に目を向ける。
「寂しいのはイヤ、か…。お前にとっては、奴らといる方が幸せなのかもしれんのう…」
寂しそうな表情で呟いた。
その時、ガサッと反対方向から茂みが揺れる音がした。
ジャオは振り返ると、意外な人物に目を見張る。
「ニルス…」
「…逃げられたようですね。ジャオさん」
金髪の旅装束の男性、ニルスは剣を片手に彼のもとへ近づいてきた。
握られた剣は所々赤黒い液がついている…道中、魔物と対峙した証拠だ。
「お前さんが此処におるのは…ウィンガルの命か?」
「“次期王妃をマクスウェル一味から奪還せよ”―――我が主から言い渡された長期任務です」
愛想よく笑いながら言うニルス。
だが…すぐに真剣な顔になり、ジャオと向かい合う。
「ジャオさん…貴方は命じられた本来の任務にお戻りください」
「……分かっておる。じゃが…」
少し渋る様子のジャオに、ニルスは口元を緩めて言う。
「あの子は…貴方が以前言っていた知り合いの子ですよね。研究所にいた…子ども達の一人」
ニルスは、どこか遠い目をして当時の事を振り返る。
忘れもしない…かつてア・ジュールが極秘で進めていたある実験の被検体として集められた子ども達。
その中にいた物静かで、利発的なゆるい白金色の長い髪の少女。その子とわずかな期間だが、接触した事がある。
まさか、ジャオの知り合いの子だとは思わなかったけれど…。
「王妃とエリーゼは、僕が代わりに連れ戻しますよ。だから、ジャオさんは今の任務に集中してください」
「……すまない」
ニルスの提案に、ジャオはその一言を呟く。
抱える心配事を彼に託す事にしたからだ。
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