第5章:行く手を阻むモノ
樹海を移動している間、カナンはエリーゼに口頭で術の知識を教えていた。
「回復術は、大小含めて色んなタイプがあるけれど、傷や状態異常の程度や種類によって分けて使用する事で、消費する力を抑える事ができるのよ」
「はい…分けて使う…ですね」
『パターンが大事って事だね』
「複数の人の場合は、広範囲の回復術を使用する事。
でも、敵に目をつけられる危険性があるから味方が敵をひきつける…」
「遠くで…援護ですね」
『敵がきたら即効逃げなきゃね~』
前方で歩いているジュートとアルヴィンも、彼等の会話を聞いていた。
「…カナンさんの話、僕達も参考になるね」
「ああ、基本だが、戦いに慣れちまって疎かにしている事ってあるからな」
「…ふむ。場合によって術を使い分けるか」
ミラもまた、自分の戦闘スタイルに思う所があるのか、カナンの話に耳を傾けていた。
幸い、魔物達も一行を襲う気配もなく(理由はカナンにあるのだが)、スムーズに道を進んでいく。
そして、前方に明るい日差しが見えてきて、出口が間近に見えてきた…その時だった。
―――ワォオオン
獣の遠吠えが木霊する。
一行が視線を前方へ向けると、巨体な木の根があり、その上に一匹のシルヴァウルフがじっとこちらを見下ろしていた。
「攻撃してくる様子がない…?」
「気を抜くな。仲間を呼び寄せるかもしれないぞ」
不思議がるジュードに、アルヴィンが大剣を構えて注意を促す。
ミラも剣を抜いて威嚇するが、シルヴァウルフの視線は攻撃態勢をとる三人に向かず…
「…あの子、私達に用があるみたい」
カナンと…エリーゼへ注いでいた。
エリーゼは身じろぎするが、カナンが彼女を守る様に前に出る。
『…貴方の主は誰? 此処に来ているのでしょう』
シルヴァウルフに向かって、カナンは何か話しかけている…聞いた事もない言語だ。
「あれは…」
「ミラ、知っているの?」
「ああ…魔物と意思疎通ができる者が話す特殊な言語だ。イバルが以前、使っているのを見た事がある」
もしかしたら、カナンは魔物も使役する事が可能なのかもしれない。
ミラは、今もシルヴァウルフに話しかけるカナンを見つめながらそう思った。
「おい…あっちから誰かくるぞ」
ガサゴソと茂みを揺らして、出入り口方面から一人の大柄の男性が姿を現す。
「おうおう。よう知らせてくれたわ」
よってきたシルヴァウルフの頭を撫でて感謝の声を出す…その男性にカナンは目を細める。
「…ジャオさん」
「おっきいおじさん…!」
『きゃぁああああ、でたぁあああ!』
エリーゼは驚いて、ティポも大絶叫して近くにいたアルヴィンにへばりついた。
『助けてェエえ、アルヴィンくーん!!』
「もが、もがが、もがもがもが(…ってこら! だったら、はやくはなせよ!)」
顔にへばりついたティポを、両手で掴んで引き放そうとしているアルヴィン。
そんな彼等をよそに、カナンは冷静な様子でジャオに話しかける。
「ジャオさん、貴方が此処にいるのは…【あの人】の命令?」
「…いや、ワシはそこにおる娘っ子を連れ戻しに来たんじゃ。さあ、娘っ子、村へ戻ろう」
ジャオが優しい口調で手を差し伸べるが、エリーゼはカナンの後ろに隠れてフルフルと被りを振る。
うむ…とジャオは困った表情で唸る。
「お前はエリーゼとはどういう関係だ」
「その子が前にいた場所を知っておる。彼女が育った場所だ」
「じゃあよ、故郷にエリーゼを帰せばいいんじゃないのか?」
ジャオはミラの問いに答えたが、アルヴィンの言葉には沈黙してしまう。
「エリーゼは、あの村に閉じ込められた上に村人達に嫌な思いをさせられていたんですよ。それをまた…閉じ込めるつもりですか!」
「……すまんとは思っておる」
ジュードが怒を孕んだ声で訴えると、ジャオは申し訳なさそうに呟いた。
カナンは、後ろにいるエリーゼを横目で見る。
ジャオのあの様子から推測して、エリーゼの故郷はもうないのだろう。同様に、彼女の血縁者も…。
「カナン、お主もきてもらおうか。陛下が待っておる」
「前にも言ったけど、私はまだ【あの人】のもとへいけません。それに…」
カナンは、隠れているエリーゼに視線を向けて口元を緩める。
「この子―――エリーゼを村長直々に任されたの。
私は世話役としてこの子を面倒を見なきゃいけない。
だから、村に帰る事はできません」
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