第5章:行く手を阻むモノ


「わたし…邪魔にならないようにするから…だから…」


嗚咽をこらえながら言うエリーゼに、ジュードとミラは気まずい雰囲気に包まれる。


「ジュード君、ミラ…」


アルヴィンがハッとその声の方へ向くと…カナンが仁王立ちで二人に鋭い視線を向けていた。

怒っている―――いや、そんな表現は生ぬるいと言わんばかりに、今の彼女は憤っている!

ミラとジュードも…見た事のない彼女の表情に戦慄しているみたいだ。

アルヴィンは、べそをかくエリーゼに「あっちいこうぜ」と苦笑いして手を握ると、数メートル先までダッシュした。


「……??? どうしたん…ですか?」

『なんで、はなれなきゃダメなの?』

「まーまー、とりあえずエリーゼ姫…ちょっと耳塞ごうな~」


アルヴィンは、エリーゼの耳を両手で覆うと、気の陰に隠れてあちら側の様子をみる。


「あなた達…いい加減しなさい!」


怒号と共に、数メートル離れていてもビリビリと肌を伝う覇気に、アルヴィンは身を震わせる。


(おっかねぇ…こんなに恐縮するのは、師匠(せんせい)以来だ)


この時だった。

アルヴィンは思い描いていた、カナンのイメージ像が大幅に変化したのは…。

そして、医学生と精霊の主相手に彼女の“説教”は長く継続した。

後に、この話が隠れ潜んでいた『ある人物』により、後世まで語り継がれる事になるのは…まだ誰も知らない。




【少女とぬいぐるみの力】




「エリーゼ…ごめんね。心配かけて」

「その…私も言葉が過ぎた面がある。すまないな…これからも期待しているぞ。エリーゼ」


「……は、はい!」

『やっぱり友達はニコニコ楽しくだねー!』


二人が仲直りしたのだと知り、エリーゼはティポと一緒に嬉しそうに笑う。

アルヴィンはハハハ…と冷や汗を流して笑いつつ、隣にいるカナンをちらりと見る。


「あら、アルヴィンさん。私の顔に何かついてる?」

「い…いや、別にー」


きょとんとした顔で尋ねてくるカナンに、視線が反対方向へ逸れてしまう。

カナンの目が、ジュードとミラに移ると彼等はビクッと反応する。


「使命を優先したい思いは私も同じよ。でもね、過酷な旅を続けるためにチームワークは大切よ。ね、ミラ」

「あ、ああ…今回の事で、私もそれを深く痛感した」

「仲間を思いやる気持ちは大切だけど…周りの空気にも気を配らないとね、ジュード君」

「は…はい!」


微笑してかけられる言葉に、ミラとジュードはコクコクと頷いて同意する。


「さぁ、問題は解決したから、先を進みましょう。此処にいるとまた厄介な魔物がでてくるかもしれないしね」

「はい…いきましょう!」

『レッツゴー♪』


ミラに認められた事で、うきうきと上機嫌のエリーゼとティポはカナンの提案を了承してついていく。

アルヴィンは横目で、説教を受けた当事者たちを見てみると……


「…僕達、反省しないといけないね」

「ああ…人とは怒らせると、精霊さえも震撼させる膨大な力を発揮できるのだと実感した」


顔色を青ざめて話すジュードと、真剣な顔立ちで語るミラが視界に入った。


「…精霊の主さえも恐れさせるとは…マジですげーよ、あの王妃様」


ぼそりと呟いたアルヴィンの言葉に同調するように、隠れ潜んでいた魔物達は、一行をこれ以降襲う事はなかった。





【つづく】

20/71ページ
スキ