第5章:行く手を阻むモノ


  ♪♪♪~ ♪♪♪~



カナンは歌を口ずさむ。

その歌は、マールーシャもよく知るものだった。


白と黒…光と影…対極に位置する二つ。

それは人間にある本質であり、切っても切り離せない表裏一体のものである。

「光」と「影」…その二面性があるからこそ、人の心は成り立っている。


歌に込められた思いをマールーシャはそう解釈している。

彼はこの曲が好きだ。

好きになった最大の理由は―――


「どうだった?」


唄い終えたカナンに尋ねられると、マールーシャはパチパチと拍手する。


「…素晴らしかったよ」

「褒めてくれてありがとう。この曲はね…リエさんから教えてもらったものなの」

「…そうか、彼女が…」


一瞬だけ、マールーシャは眼を見開くが、すぐに納得した表情で頷いた。


「この曲はね…【男性二人の友情と絆を唄ったもの】だと彼女は言っていた。でも…私は【男女の恋心を綴ったもの】だと解釈している」


カナンがそう言うと…マールーシャはフッと口角をあげる。


「…成程、それでそのラブソングを選曲したのは、貴女の今の心境を暗に示しているのか?」

「そうね…そうかもしれない」


皮肉気なコメントに対して、カナンは嫌な顔をする事無く瞼を閉じて苦笑して答えた。


「ア・ジュール王の貴女に対する想いは、端から見ても手に取るようにして分かった」


あの崖で対峙した時に、カナンを連れ去ろうとする事にあからさまとは言わなくても、感情的になった態度。

王が、彼女に並々ならぬ愛情と執着を抱いているのは明白だった。


「対して、貴女があの王の事をどう思っているのか…曲目で察したよ」

「洞察力が鋭いわね」


マールーシャは、片手から薔薇を取り出して花弁を人差し指でなぞるように触れる。


「…“人を愛する心”、一昔前までの私であれば、鼻で笑っていた」

「…という事は、今は理解があるって事ね」


カナンからそう指摘されると、マールーシャは薔薇を口元に寄せる。


「他人の恋愛事にはあまり興味は湧かない性質(たち)だ」


だが…と視線をカナンに向けて、ゆっくりと歩み寄る。

そっと彼女の頭に片手を添えると、髪に薔薇を挿した。


「貴女とあの王の恋路がどうなるのかは…大いに関心がある」

「期待されても困るわ…。あの人とどうなるのか分からないもの」


複雑そうな表情でカナンは緩慢に被りを振る。

マールーシャは彼女の頬に手で触れる。


「…迷うなら迷えばいい。想いが不変の愛へなれるのか、刹那の恋と散るのかはカナン…貴女次第だ。迷いの先に答えを見出せばいい」


私の満足にいく結果になる事を期待している…と呟き、カナンの唇を人差し指をトンッと触れると、己の唇へ指をもっていく。


「…そうね。最後に選ぶのは“私”自身なのよね。ありがとう」


カナンは眼を瞬きさせるが、穏やかな表情で答えた。

どこか気障でナルシストな雰囲気だという印象だったが、言われた事が彼なりの“アドバイス”だと感じたのだ。


「礼を言われるような事はしていない。あくまで個人的な…まあいい。さて、世間話はここまでにして、本題に移ろうか」


マールーシャは何か言いかけたが、敢えて曖昧にして話題を変えてきた。


「そう…じゃあ、お願いします」


そこを追求する野暮は真似はしなかった。

何か思う節があるのだと解釈して、本題の【とっておきの情報】を聞く事にした。



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