第5章:行く手を阻むモノ


それから数十分経過したが、まだ演奏は始まらない。


「おっかしいなー。そろそろ始まってもいい頃なのによ」


アルヴィンが頬杖をついて、まだ準備すらされていないステージに目をやる。

どうしたんだろう、とジュードは不安そうな顔で辺りを見回し、エリーゼも不思議そうに首を傾げ、ティポは退屈そうに欠伸をしている。

ミラは…演奏が始まるまでの時間つぶし(?)に料理のおかわりをしている。既に、食べ終えた皿は8枚を余裕に超していた。

宿の食事形式が、バイキングなのが幸いだったかもしれない。


「…演奏まだかよ」

「この宿のメインイベントだって言うから、一ヶ月前から予約を取ったのに…」

「ママ、つまんなーい」


周囲にいた別の客達も痺れを切らしたのか、ぽつりぽつりと文句が出始めている。

さて…何かトラブルでもあったのか、とカナンもデザートのティラミスを味わっていると、扉越しにひそひそと話声が聞こえてきた。


『…・なんとかならないのか!?』

『無理です…間に合いません!』


普通の人には聞こえないものだが、生憎と聴覚の良いカナンには丸聞こえだ。

持っていたフォークをそっと…お皿にのせると、カナンは席を立つ。


「む…? どこに行くのだ、カナン」


魚の香草焼きを味わっていたミラが問うと、カナンは笑いながらこう答えた。


「ごめんね、化粧直しにお手洗いに行ってくる」

「おっ、だったら俺もいいか? ちょっと生理現象がきてさ」

「…アルヴィン…食事中だよ」


ストレートに言うアルヴィンに対し、もうちょっと発言を慎んでよ、とジュードは窘める。

悪い悪い、とアルヴィンは笑いながら軽く平謝りする。

その間に、カナンは会話がまだ継続している食堂の外へと移動した。


「あの…何かあったんですか?」


扉を開けて、すぐの待ちあい場で宿の支配人と男性従業員が深刻そうな表情で立っていた。


「あ、いえ…お見苦しい所を見せて大変申し訳ございません」

「少々…トラブルがおきまして」


「もしかして、今日のメインイベントと関係あるのかい?」

「あ、アルヴィンさん」


いつの間にか、後ろで立っているアルヴィンに、カナンは肩越しに振りかえる。

すると、支配人と男性従業員が深々と頭を下げた。


「折角お越しいただいたのですが…本日の演奏は延期とさせていただく事になりそうです」

「えっ、どうして?」


理由を聞くと、傍らの男性従業員が困った表情で説明をしてくれた。


「予定していた歌手と演奏者がこちらへ来る前に、イル・ファン全域の船が出港停止になってしまったのです」

「あちゃ~、それじゃ来るに来れないな」


どうやら、国の唐突的な政策により、予定していたメインイベントを中止にせざる負えない状況のようだ。


「…代理の人に依頼する事はできないのですか?」

「二日前に手配したのですが…こちらに到着するのは八の鐘が鳴る頃だと、シルフモドキの通達が先程ありまして」


つい先程、六の鐘が鳴ったばかりだ。

代理はサマンガン海停に着くまで、まだまだ時間がかかってしまうらしい。

さらに、客達の間では既にクレームが出ている状態。


「もう諦めるしかありません。待っている方々にはこちら側からお詫びをせねば…」


支配人は、深い溜息をもらして頭をうなだれる。

すると…カナンは何か閃いたのか、重たい足取りの支配人達に待ったをかける。


「代理の人が来るまで、二時間ほどかかると仰いましたよね。その間に、余興をして時間稼ぎをすれば何とかなりませんか?」

「は、はぁ…しかし…」


「ちょーと待てよ。時間稼ぎって…その前座を務める人材を探さなきゃなんないだろ? そんな奴いるのかよ」


アルヴィンの言う通り、大勢の人の前で緊張せず、しかも芸の達者な人材なんて都合よくいるはずもない。

ジト目で見つめる傭兵と、最早諦めを漂わせている支配人と従業員に対し、カナンは口元に弧を描いて言った。



「私でよければ…少しの退屈しのぎにはなる余興はできますよ」



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