第5章:行く手を阻むモノ
宿屋の手続きをし終えた後、カナンは部屋へ向かった。
部屋は、アルヴィンとジュードの男性陣、ミラ、エリーゼ、カナンの女性陣に分かれた二部屋。
入室すると、エリーゼはティポを毬代りにぼよんぼよんとついて遊んでいた。
ミラは、ベッドの上で胡坐をかいて瞑想しているようだ。
「カナンか…」
ミラは薄らと目を開けて、入ってきた人物がカナンである事を確認する。
同じく、エリーゼもティポをつくのを止めるとカナンに視線を向ける。
「遅かったな。何かあったのか?」
「ごめんなさい。露店があったからつい見入っちゃって…」
「『露店』って…どんなものがあるんですか?」
苦笑しながらそう弁明すると、エリーゼがその話に強い興味を示してきた。
「そうね…武器や防具、旅の必需品を扱っているお店もあれば、食材やアクセサリーを売るところもあるかしら」
「わぁ…色んな物があるんですね」
「私もカナン達と旅するようになってから知った身だが、人の営みを間近で見るのは面白いぞ」
話を真剣に聞き入るエリーゼに、ミラも露店の良さを語る。
ついさっきまで、ぎこちない空気が流れていたのに、今は自然と二人の間に会話が成立している。
コンコンッとタイミングに合わせたかのごとく、戸を叩く音が響く。
「皆、そろそろ夕食食べに行かない?」
扉越しにジュードの誘いの声が聞こえてきた。
「むっ…丁度空腹を感じていたところだ」
「早く…いきましょう!」
『おいしーいごちそうでるといーいなー♪』
「わぉ…食事になると素晴らしい位、息がぴったりね」
意外な所でミラとエリーゼ(そしてティポ)の話題の“共通点”が明らかになった。
その発見に口元を緩めつつ、ミラ達を負う様に食堂へ足を進めた。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
大広間の食堂では、たくさんの宿泊客で賑わっていた。
アルヴィンがスペースを確保してくれていたので、スムーズに席につく事が出来た。
「わぁ…来た時から思ってたんだけど、此処って、今までの海停の宿とイメージと違うね」
「うん、高級感が溢れているわね」
「サマンガン海停は六家のひとつ、シャール家の統治下だ。首都イル・ファンには規模は及ばないが、公共施設や整備に力を入れているって話だぜ」
感想を漏らすジュードとカナンに、アルヴィンが水の入った円筒型のコリンズ・グラスを持ちながら説明する。
周囲をみると、食堂全体には埃一つなく清潔感が漂っており、従業員の客に対する態度やサービスも申し分ない。
グラスに入った水を一口呑むと、苦みのないレモンの爽やかな風味が舌を潤してくれる。
「うん……もぐ、出される料理も…一味…むぐむぐ、違うようだぞ」
「おいしい…です!」
『デリーシャス!』
ミラは、肉料理を咀嚼しながら満面の笑みを浮かべて喋る。
エリーゼも、野菜のブイヨンスープに下鼓を打っているようで、ティポも大絶賛する。
「もぅ、ミラったら…口元にソースがついているよ。ほら、エリーゼもね」
ジュードは、苦笑してナプキンでミラとエリーゼの口元を交互に拭いてあげる。
そんなほのぼのとした光景を穏やかに眺めていると、ある物がカナンの目にとまる。
「…あら、此処って演奏もするのね」
広間の中央にステージがあり、ピアノ等の楽器が置かれていた。
「さっき、従業員の子にチラって聞いたんだけど、定期的に歌手を迎えて演奏をするんだって。ラッキーな事に今日がその日らしいぞ」
「へぇ…そうなんだ」
「どんな人が唄うんだろうね」
「ふむ…微精霊達の歌声はよく耳にするが、人の演奏をみるのは初めてだな」
「楽しみですね、ティポ」
『ドッキドキのワックワクだね~』
これから始まるだろうイベントに、全員は期待に胸を膨らませる。
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