第4章:始まりは夜光の都…精霊の主に誘われて


急に飛び込んできた人物に、おのずと全員の視線は集中した。

長い銀髪をポニテールにして、目付きが鋭い肌が褐色の少年だ。

年齢は、ジュードと同じか一つ上くらいだろうか。


「……イバルか」


ミラの口調から、『イバル』という少年は彼女と面識があるようだ。


「ミラ様、心配しました! これは……四元精来還の儀!? 何故今このような儀式を!?」


イバルは驚いたように周囲を見渡し、召喚されたノームに気付く。


「ノーム様! 他の御三方は…ウンディーネ様、イフリート様、シルフ様はどちらに…!」

「イバル、その件については私から話そう…」


動揺するイバルに、ミラは疲労交じりだが、冷静な口調でこれまでの経緯を語り始めた。


「そのような事が…」


信じられない、という面持ちでイバルは呟く。


「召喚できないってことは、大精霊は死んでしまったのか?」

「バカが! 大精霊が死ぬものか!」


何気なくアルヴィンが疑問を口にすると、イバルは鼻で笑い、全否定した。


「大精霊も微精霊同様、死ねば化石となる。だが、その力は次の大精霊へと受け継がれる!」

「……って言われているけど、実際に見た人はいないって話だよ」


得意げに弁舌をふるうイバルをよそに、ジュードがこっそりアルヴィンに耳打ちした。

二人の会話に耳を傾けつつ、カナンはふよふよと浮いているノームに近づく。


「ノーム様、お初にお目にかかります」

『…ん? みかけない顔でしね』

「カナンと申します。事情があり、ミラ様の旅業に同行しております」


相手を敬いながら、カナンは自己紹介する。


「彼女と…ジュード、アルヴィンのおかげで、私は無事にニ・アケリアまで戻れたのだ」

『そうだたでしか、ありがとうでし、ミラがお世話になたでしね』


補足するように、ミラは続けて説明をした。

ノームは納得したのか、素直に感謝の意を表した。


「ノーム様、お疲れの所申し訳ございませんが、お聞きしたい事がございます」

『何をでしか?』

「…他の大精霊の方々は…もしや『クルスニクの槍』に囚われの身になられたのではございませんか?」

「バカが! 人間が四大様を捕えることなどできるものか!」


カナンが質問するや、イバルが横から口を挟んできた。

横目で彼を見つつも、カナンは気にしたそぶりを見せずにノームの回答を待つ。


「…そうかもしれない」


カナンの発言を擁護するように、ジュードが言った。


「なんだとっ!」


自分の意見を否定され、イバルはムキになってジュードを睨みつける。

ジュードはそんな態度を諸ともせずに言葉を続ける。


「あり得ない事でも、他に可能性が無いなら真実になり得るんだよ。“何もない空間で、卵がひとりでに潰れた場合、その原因は卵の中にある”」

「『ハオの卵理論』だな。さすが優等生」


アルヴィンは、感心したように頷く。

指摘された事が悔しいのか、イバルは「うぬぬっ…」と唸る。


『その通りでし…』


追い打ちをかける様に、ノームが肯定した。

そのため、ガーンと効果音が鳴る様に、イバルは口を開けたまま硬直した。


「そうか…あれは四大を捕らえる程の黒匣だったのか…。あの時、私はマクスウェルの力を失ったのか」


ノームの証言により、ミラは今までの仮定が事実なのだと判明して、悟った様に目を閉じた。


『ごめんでし…僕の力が足りない所為で、他のみんなや【あの人】を助けられたなかたでし』


しゅんと項垂れるノーム。

カナンは、彼が放った言葉のある部分に目を微かに見開く。


(まさか……)


その事を問いかける前に、ミラが口を開いた。


「すまないが…先に村に戻っていてもらえるか? 私はノームと話をしたい」


ミラが静かにそう言って、退出をするように促した。

表情にはあまり出さないが、彼女も内心はかなりのショックを受けているみたいだ。


「そうだ、貴様達は去れ! ここは神聖な場所だぞ! ミラ様の世話をするのは巫子であるこの俺だ! 余所者は帰れ!」


イバルは怒鳴り散らして、シッシッと三人にでていくように手を振る。


「イバル、お前もだ」

「……えっ、はっ…?」


その直後、ミラが発した言葉に、イバルはきょとんとして彼女の方を向く。


「そうだな。有り体に言うぞ…“うるさい”」


ミラは目を鋭くして従者に苦言を呈した。

その言葉に衝撃を受け、イバルは驚愕したまま硬直してしまった。

ジュードは「あの…」と声をかけたが、彼は放心状態で立ち尽くしたまま動けないようだ。


「アルヴィン、すまないが…イバルを外へだしてもらえるか」

「…ったく、しょーがないな」


ミラからの指示に、アルヴィンは面倒くさそうに固まっているイバルの首根っこを掴んで引き摺って行く。

ジュードとカナンもそれに続く様に、社からでていこうとしたが……


「カナン…君は此処に残ってもらえるか?」

「えっ、でも…」

「君にも聞きたい事がある」


カナンは少し逡巡してしまうが、ミラから真剣な眼差しを向けられ、軽く息を漏らすと「分かった」と言い、社内に留まる事にした。



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