第4章:始まりは夜光の都…精霊の主に誘われて
「そういえば…何故あの丘に?」
カナンが、ふと思い出してラクシーヌに尋ねた。
「ダスクに情報探らせてたら、ラ・シュガルの爆発事件で逃亡した犯人の中に、エクレシアがいるって知らせてきたのよ…」
ア・ジュールへ亡命してミラ達と行動を共にしていたのを、ダスクに見張らせていたらしい。
隙を見て、カナンと接触するつもりだったが…プレザの襲撃という予想外の事態が起きた。
「後をつけて貴女の様子を見ていたが…只ならぬ雰囲気なので、失礼ながら介入させてもらった」
「あんた…あの王様にストーカーされてたのね」
「あの、『ストーカー』って訳では…」
訂正しかけたが、自分の置かれた状況と“彼”の行っている事を思い返してみて…
「…ないと言いきれないかな」
フォローするのを踏みとどまった。
この二年の間に、“彼”の執着度が収まるどころか、アップしている気がしてならない。
「リエだけじゃなくって、あんたも苦労してんのね~」
ラクシーヌが同情する眼差しで、労わりの言葉を言う。
「ストーカーって…じゃあ、さっきのあの男の人は悪い奴なのか?」
「現段階で言えるのは、カナンにとっても我々にとっても味方にはなりにくい、という事だ」
ロクサスが疑問を口にすると、マールーシャは顎に手を当てて答えた。
少なくとも、三人は数十分前に邪魔をしたのだから、ガイアス側にとっては【敵】と認識されているかもしれない、いや…されているはずだ。
「ロクサス君、誤解しないでほしいのは…彼は悪い人ではない」
「えっ、そうなの?」
ロクサスからみれば、カナンのその言葉は意外だった。
闇の回廊から様子を見ていた際に、カナンはガイアスと言い争っていた。
会話の内容は、あんまり聞き取れなかったが…カナンが彼に連れて行かれるのを嫌がっているのは解った。
「まだ、あの人と再会するのは早すぎたのよ…」
カナンが淋しそうに笑いながら言う。
ロクサスは「そうなんだ…」と言いつつも、どこか腑に落ちない表情だ。
「ロクサス、物事には“タイミング”というものがある。タイミングを外してしまえば、自分の思い通りにしたい事も失敗に繋がってしまう」
マールーシャが、疑問符を浮かべるロクサスに説明をする。
「よーするに、あの王様はカナンを連れていきたかったけど、カナンは任務があるからそれを優先したかったの。でも、王様はそれを納得できなかった。
相手の都合を無視したから、その結果、カナンと喧嘩しちゃったわけ。これが『タイミング』を外したっていうのよ」
さらに続けて、ラクシーヌが分かりやすく解説してあげた。
ロクサスは成程と理解したのか、首を小さく上下に振る。
「……ま、あんたとあの王様の間に何があったかは追及しないけどさ、ああいうタイプは結構しぶとく付き纏うわよ」
ラクシーヌは遠回しに「平気?」という風に気にかけているようにみえる。
「ありがとうございます。……けど、いずれは【あの人】と話し合わなければいけないので…」
「…『話し合い』か」
カナンが苦笑しながら言った事に、マールーシャが意味深気にその単語を呟いた。
「マールーシャ…?」
「いや…少しな」
思案する仲間に、ロクサスが名を呼ぶと彼は肩を竦めて曖昧に笑みを浮かべた。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
「じゃあね、何か分かったら連絡ちょうだいね」
「ええ。皆さんもお気をつけて」
あれから20分程度、話をした後…リエに関する情報が入手できたら、ラクシーヌ達に伝える事になった。
その見返り…というべきか、彼女達も何か情報が入れば、部下を通じて提供してくれると約束してくれた。
「あの…カナンさん」
「ん? どうしたの、ロクサス君」
小道を先に進もうと一歩踏み出そうとした時、ロクサスが声をかけてきた。
「俺達以外に…シオンもきているんだ」
「えっ、シオンちゃんが?」
シオンは、ロクサスと同年代の機関員だ。
ショートヘアーの黒髪の少女で、リエが可愛がっていた子でもある。
リエが機関を脱退した後も彼女についていき、時折任務にも同行している…そのくらい、リエに慕っている。
「リエさんが行方不明になって、凄く心配してたんだ。もし、リエさんの事何か分かったら、真っ先に教えてあげてくれないかな?」
訴えかける眼差しで懇願してきたロクサス。
友達思いな子だ…そう思った。
「ええ、分かったわ」
カナンは柔らかく笑って、少年のお願いに同意した。
ロクサスはぱぁと顔を輝かせて、「ありがとう!」と嬉しそうに御礼を言った。
手を振って見送るロクサスに、小さく手を振りながら、カナンは目的地へ足を進める。
―――いざ、《ニ・アケリア》へ!
【つづく】
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