第4章:始まりは夜光の都…精霊の主に誘われて
攻撃を回避した瞬間、深々と被っていたフードがふわっとおりて女性の顔が露わになる。
前が二つの触角のような髪型をした金髪の美しい容姿だ。
相手を見下すような眼差しと、気の強そうなプライドの高い雰囲気がアクセントを加えて、艶やかな色合いを強めている。
「…へぇ~、なかなかやるじゃない」
『痛い目を見たくなければ、大人しくしやがれ!』
ロンダウ語で攻撃的な言葉を吐き捨てるウィンガルは、剣の切っ先を膝をついている女性へ向ける。
しかし、女性は臆するどころか余裕の笑みを浮かべる
「訳わかんない事言って意味不明だけど…ちんたら私の相手をしていいのかしら~」
彼女が指をさした先に、ハッとウィンガルは振り返る。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
少年は、鍵型の双剣で必死に攻撃を仕掛けていった。
己よりも体格が大きいガイアスに力では劣ってしまうもの、素早いスピードを用いて戦っているのだ。
勝つためではない…足止めをするために。
キンッキンッと、武器同士の摩擦する金属音が鳴り響く。
二人の様子を目にしながらも、カナンは横抱きにしている男性に視線を向ける。
「…どこに連れていくの?」
「フッ、貴女の望みを優先しよう」
フードの奥に見える男性の口元が弧を描く。
どうやら…自分に味方をしてくれるようだ。
それが分かると、カナンも口元を和らげる。
「じゃあ…ニ・アケリア近くの街道まで」
リクエストを言うと、男性の背後に狭間の闇が出現し、背を向けてカナンと共にその中へ入ろうとした。
「逃がすものか」
「しまった…!」
ガイアスが少年の一本の鍵型の剣を弾き飛ばすと、駿足で少年を通り抜けて、二人のもとへ駆け出す。
闇の中へ男性が入っていく瞬間、横抱きにされているカナンと目があった。
―――《またあいましょう》
口元を微かに動かして、そのメッセージを紡いだカナンの表情は笑っていた…申し訳なさそうに。
ガイアスの手が辿り着く前に、狭間の闇は消えてしまった。
「……間に合った」
それを見計らい、少年も双方の剣を下ろすと闇に包まれて姿を消す。
「フフフ、じゃあね♪」
勝ち誇った様な笑みを浮かべ、四象刃と戦っていた女性も背後に同様の闇を出して、華麗に退散した。
彼等…突如乱入してきた未知なる敵に対し、その場にいた者達の胸中にさまざまな感情が湧き起こる。
ジャオは呆然とするしかなく、プレザは命が危機にさらされたという事態を徐々に認識し始めたのか、困惑と恐怖を感じていた。
ウィンガルは、苦虫を噛み潰した表情を浮かべ、ダンッと近くの大木に右の拳を打ちつける。
「おのれ…」
やり場のない怒りと苛立ちをその一言に込めて、ギリッと唇を噛んだ。
【黒き衣の乱入者】
「カナン…」
いなくなってしまった想い人の名を呟くガイアス。
また、逃げられてしまった。
その喪失感と空虚感に苛まれる一方、彼女が言った言葉が頭をよぎる。
『私は…貴方の心を満たす為の人形じゃないわ』
『他人の事を知りたがるのに、自分の事を全然語らない人を…どう信じればいいの?』
今まで蓄積していた不満…怒り、悲しみ。
それらが彼女を苦しめていたのだと解り、ガイアスは静かに視線を空へ向ける
(…ならば、語ろう。お前が知りたい事を…ありのまま全てを)
瞳に宿るのは失望ではなく、微かに芽生えた期待の色だった。
《つづく》
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