第4章:始まりは夜光の都…精霊の主に誘われて


―――シュッ、カッ!


その時、空気を切る音が響く。

カナンが我に帰り、地面を見ると…ちょうどガイアスと自分を隔てる様に足元に“あるもの”が突き刺さっていた。

―――ひらりと一枚の花弁を舞わせる真っ赤な薔薇の花。


「…えっ…?」

「―――何奴だ。姿を現せ」


目を瞬きさせて驚くカナン。

ガイアスは己の邪魔をする…どこかに潜む【人物】に殺気交じりの声をあげる。


「話の最中、無粋なまねをした事は詫びよう。だが…女性(レディ)に対するエスコートの仕方がなっていないな」


その牽制の声に臆するそぶりも見せず、敢えて姿を見せた【邪魔者】

黒いコートを纏い、深々とフードを被っているため外見は分からない。

だが、体格と声音から“男性”であるとはすぐに察した。


「…何者かは知らぬが、邪魔をするのであれば容赦せん。早急に立ち去れ」


ブワッと身体が激しく覇気を放出させるガイアス。

突如、乱入してきた人物に苛立ちを感じているのもあるが、その男から流れ出る並々ならぬ気圧も感じ取り、警戒を強めたのだ。


「私としても、男女の駆け引きに首を突っ込む野暮な真似はしたくない。だが…そちらの女性(レディ)に用事があるのでね」


次の瞬間、ガイアスは目を疑った。

先程まで隣接する距離にいたカナンがフッと消え、いつの間にか男に肩を抱かれて立ち尽くしていたからだ。


「カナン!」

「あの…」

「すまないが、話は後にしてくれるか」


カナンは物言いたげに謎の男に声をかけるが、人差し指を唇に押し当てられ、小声で待ったをかけられる。

ちらりと、フードの奥底から見える顔に、カナンは「ん…?」と目を細めてみる。

すると、視界が男性から青白の空へと一変し、浮遊感を覚える。


「此処ではゆっくり話ができそうにない」

「貴様…カナンを離せ!」


想い人を横抱きにして掻っ攫おうとする男に、ガイアスはカッと目を見開くや刀を片手に駿足で襲いかかろうとした。


―――キンッ、キンッ!


しかし、その行く手を阻むように別の黒コートを纏う者が出現して、ガイアスの長刀を跳ね返した。


「…何っ!」

「此処から先はいかせない!」


先端が星をイメージした形の白色と、対照的に黒色の鍵型の剣を双方の手に握っている。

最初の男とは異なり、身長も小さくまだ10代前半の少年の様だ。

小柄であるのに、体格差のある大柄のガイアスの一撃を二刀流を駆使して弾き飛ばした―――かなりのつわものと言える。


「陛下!」


事態に気付き、森に潜んでいたウィンガル達が応援に駆けつける。


―――ドガッ、バリバリッ!


だが…そんな彼等を威嚇するように、青白い稲光が目の前に落ちてきた。

プスプスッと地面に黒い焦げあとが生じている…それを目にしたプレザは喉をゴクリと鳴らす。

もし、一歩先に行っていれば、間違いなく無事では済まされなかっただろう。


「あーら、直撃しなかったわね~。運の良い連中だこと」


からかう口調で、四象刃三人の後方から聞こえてきた。

ウィンガルが肩越しに後ろを見ると、空間が歪み、澱んだ闇が出現する。

その狭間の闇から、姿を見せる黒コートを纏う第三の人物。


「めんどくさいけど、あんたらの足止めしないといけないのよねー」


高い声音と胸元が凹凸のある事から、女性の様だ。

表情は見えないものの、少なくともこちら側を嘲笑っている…プレザは眉を顰めてそう感じた。


「うじゃうじゃと…目に余る鼠共が出没するものだ」


チッと軽く舌鳴らしをして、ウィンガルは腰から剣を抜く。

彼より先に、ジャオがふんっと大槌を大きく振って仕留めようとしたが、その女性は跳躍して攻撃を軽々と避けた。


「ディフュージョナル・ドライヴ!」


プレザが水系の精霊術を唱え、夥しい水の弾丸が女性目掛けて飛んでいく。

しかし、それを予知したかの如く、女性は襲いかかる水の弾を目にもとまらぬ速さでかわしていく。

さらに、両手を軽く握って複数の投げナイフを出現させて粉砕する。

あまりの速さに気付けば、顔面目掛けて切りかかろうとする位置まで来ていた。

プレザにその凶刃が喰らう前に、増霊極(ブースター)で、戦闘力をあげたウィンガルが女性の背後から切りかかる。

女性は回避しようと右横に後退した事により…既の所でプレザは危機を免れた。



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