第4章:始まりは夜光の都…精霊の主に誘われて


「……そうだったのか」


重たい空気を切り裂いたのはガイアスだった。

声の調子は、困惑に近い感情が滲みでている。

“傷つけた”―――そう思うと胸の内で苦しく呻く。


「ガイアス…いえ“陛下”。私は【使命】を終えるまで貴方の御意向に沿う事はできません。どうか御理解ください」


でも…これでいい。

まだ、この人に【真実】を伝える段階ではない。


「…では、失礼いたします」


例え、ガイアスと完全に袂を分かつ事になろうとも構わない。

ずっと、我慢してきた不満を一気に発散する事もできたのだから。

踵を返して、その場から離れようとした。


「待て」


だが、ガイアスに手首を掴まれた事で阻止されてしまう。

彼は目を細めて再び口を開く。


「…言いたい事は他にあるか?」

「ございません。放していただけますか? 急いでいるので」


小さく被りを振り、ハッキリとした口調で掴んでいる手を放すよう要求する。


「そうか…だが、俺はまだ言いたい事がある」

「ちょ…待ってッ!」


手首を引っ張られて、抱き寄せられて顔を近づけられてしまう。

もう一つの手を伸ばして、カナンの細い顎を取り、くいっと上を向かされる。


「聞け」


低く、地を這う様な声が響く。

ぞくっとカナンは震えた。

今のガイアスは先程と雰囲気ががらりと変わり、吐息がかかる程、彼の顔が近くに映し出される。


「カナン…そなたが【使命】を終えるまで、ア・ジュールに帰還しないのであれば、我もこの場を借りて宣言する」


口調も一国の王としてのものへ変化し、その紫がかった紅色の瞳に鋭さが増す。

底知れない輝きを持つ刃のような視線。

その目をみて…恐ろしく感じる反面、美しいと思った。


「何を…?」

「ア・ジュール王ガイアス、必ずや【エクレシア】ユーシス・ディアルマンテと形式契約を交わしてみせる。そして…我が妃にする」

「……!」


カナンは瞠目した。

神格名を何故、ガイアスが知っているのかは最早聞く事ではないけれども、彼は堂々と宣言した。

【エクレシア】としても…【生涯の伴侶】としてもカナンが欲しいのだと。


―――“逃げろ”


超直感がそう囁いた。

カナンは、ガイアスの足の甲を強く踏んで、頭を勢いよく振って…ガイアスの額掛けて頭突きした。

彼はうっ…と呻き声をあげ、拘束していた手を離してしまう。

解放されたカナンは、一定の距離を取ってガイアスを威嚇するようにみる。


「…ゆえに、眼前にいるそなたをむざむざ逃がす様な愚行はしない。共にきてもらう」


ガイアスは、額を手で押さえながらも強い声で言うと、一歩ずつカナンに歩み寄る。

カナンは後退していくが、後方が崖であるためじりじりと追い詰められてしまう。


「…引く気はないのね」

「当然だ。過去も、現在(いま)も…」


カナンはハッとした。

己の断固たる意志を唱えるガイアスの姿と重なる様に…別の誰かが見える。

そう、幼い頃に夢でかいわみた…


「そして未来永劫―――“お前がいない【人生】”などあり得ない」


―――闘技場で戦いに身を投じていた、あの『少年』と。



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