第4章:始まりは夜光の都…精霊の主に誘われて
「…貴方には言いたい事があるの」
再会して、わだかまりが消失した訳ではない。
大事な仲間を指名手配した事を含めて、言いたい事をハッキリと突きつけた。
「アンジールと普賢さん、加奈ちゃんの指名手配を解いて。今すぐ私の仲間の濡れ衣を晴らしてちょうだい」
「すまない事をしたとは思っている…無論、あの者達の手配書は撤収させる。だが…」
ガイアスは謝罪を言うが、その瞳に後悔の念は孕んでいない。
「カナン、お前が俺と共にカン・バルクに帰る事が条件だ。さぁ、こい」
「…そうきますか」
なんとなく予感はしていた。
いや、超直感は働いていた。
ガイアスがすんなりと要求を呑みこむ事はあり得ない…と。
「なら聞くけど、あのメッセージは届いたの?」
「メッセージ…」
「アグリアからもらっているでしょう。私の髪を…」
その話題に触れるや、ガイアスはピクッと片眉をあげて口元を歪める。
「…どうやらまだ解っていないみたいね」
眉を下げて困ったような笑みで言うと、ガイアスは口元を真一文字に閉じる。
「…ガイアス、貴方の想いは伝わっている。でもね、一方的な愛し方では、お互いに幸せになるなんてできないのよ。貴方も…私も…」
「…その意味が解していたならば、お前は…俺の手をとったのか?」
差し出した手を微かに震わせ、ガイアスは問う。
「そうかもね」
「……ッ…!」
ぐっと唇を噛みしめ、ガイアスは手を強く握りしめる。
「ガイアス、私にはまだやらなければならない事がある。貴方にも貴方の為すべき事がある。だから…今はその手を取る事はできない」
「…《あの男》を単独で倒そうというのかッ」
忌々しげに吐き捨てるように言われた事に、カナンは首を縦に振る。
「…その覚悟はとっくの昔に決めているわ。【エクレシア】である以上ね」
そう答えた直後、ガッと腕を掴まれる。
痛みを伴う位、強く掴まれて思わず目を瞑ってしまう。
「俺では頼りない…と言いたいのか」
「……そうじゃないわ」
「では、何故一人で抱え込もうとする! お前は昔からそうだ…師二人にも打ち明けずに悩みを己自身で独断で解決しようとした。
それが他者にとってどれだけ傷つく事か、お前は理解しているのか!」
感情の機微を滅多に出さないガイアスは、声を荒げる。
燃え盛る炎の如く、怒りの形相に木陰で待機しているウィンガル達も遠目で驚愕しているようだ。
けれども、その行為でカナンは委縮するどころか、逆に彼女の感情の『スイッチ』を押してしまった。
「貴方…どれだけ私の事を観察していたわけ? 二年前もそうよ…私の過去から現在まで知っていた。いえ、それ以上に公私含めて知りたがった。
私の了承なしに、プライベートを勝手に見続けた上に、自己満足のために今度は私の使命まで口を挟むつもりなの…」
一度、口に出していけば、沸々と溜まっていた感情が形になる。
彼に好意を抱く一方で、粉雪のように積もっていた【不満】と【苛立ち】が…。
「最初は、貴方が『夢見の能力』を制御できないから仕方ないって思ってた。でも、あの一件以降…貴方は変わったわ。
私を放したくないために躍起になって、私を閉じ込めた揚句に王妃にしようとして…仲間まで巻き込んだ。
一国の王なら何をしても許されると思っているの…だったら大間違いよ!」
カナンは目を鋭利に細めて、怒りを爆発させた。
ガイアスは、指摘された事に一瞬口を噤んでしまうものの、首を左右に振り向き合う。
「カナン、俺は…」
「貴方は…“自分のため”に、私の行動を制限しようとしているだけよ。私は…貴方の心を満たす為の人形じゃないわ」
「…誰がそんな事を言った! 俺は…お前を守りたいのだ」
「他人の事を知りたがるのに、自分の事を全然語らない人を…どう信じればいいの?」
「……ッ!」
喉元に鋭い刃を突きつけられたように、ガイアスは息を呑んだ。
手首を掴んでいた握力が緩められ、カナンはそれを振りほどく。
「…ごめんなさい。私も人の事言えない。
貴方の指摘通り、悩みを背負いこんでいた。
自分勝手で…虚勢を張って…その所為で、周りの人を傷つけた」
顔を俯けて、消え入りそうな声で言う。
心の底で言いたくてたまらなかった事が一気に弾けてしまった事により、二人の間に重たい空気がのしかかる。
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