第4章:始まりは夜光の都…精霊の主に誘われて
「アルヴィン、気をつけて!」
「なんだ…?」
ジュードがアルヴィンを庇うように突き飛ばした。
すると、その巨大な岩から何本もの足が生えて、そのまま地面へと急降下するように飛んできた。
ちょうど、アルヴィンがいた場所に…。
「こいつは…!」
「岩に擬態した大タコだよ。さっきアルヴィンが言ってたでしょう?
人を一飲みするタコがいるって!」
大タコは、興奮しているのか長い足のいくつかを鞭のように振り回した。
「きゃぁああっ!」
その一つの足により、岩にいたプレザは薙ぎ払われてしまい、滝の中へと真っ逆様に落ちてしまう。
一方、倒れていたミラを介抱していたカナン…タコの足が真上に接近している事に二人は気付く。
「魔神拳!」
「チェイスバレット!」
ジュードは、そのタコの足に遠距離系の衝撃波を放ち、二人から退けた。
アルヴィンは、タコの目の部分に弾丸を撃ち込んでいく…急所の一つだったのか、タコは足をばたつかせて悶える。
「カナン…もう大丈夫だ」
回復術で身体が癒えた事により、ミラも戦いに参加する。
「いくぞ、ライトニング!」
ミラは、雷球を宿した剣をタコの腹部に突き刺した…身体が海水で湿ったようで、電流がタコをビリビリと感電させる。
「動きが鈍くなったな…カナン、今だ!」
ミラの呼びかけに、カナンはごつごつした岩壁を素早く昇っていく。
そこからブツブツと詠唱を唱えながら、壁の上側までくると、トンッと足蹴りして大きく跳躍した。
「灼熱の弾丸…くらいなさい。スパイラルフレア!」
両手に構えた二丁拳銃から、大きな炎の弾を発射した。
巨体のタコの中心部にその炎の術は見事に命中し、だんだんとその身を焦がしていく。
タコは呻き声をあげながら、バタリと物言わぬ『焼きタコ』となってしまった。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
高い場所から急降下してくるカナン…危ないと、ジュードは慌てて動き回る。
だが、アルヴィンが落ちる場所を見定めて素早く移動し、パシッとカナンを横抱きして受け止めた。
「ふぅ…ありがとう」
「やれやれ…危なっかしいな、あんたも…」
アルヴィンに慎重に立たせてもらうと、カナンはミラとジュードをみて頭を下げた。
「ごめんなさい…皆に迷惑をかけたわ」
「謝らなくていい。あの女に囚われてしまったのは私の不注意が招いた事だ」
「それよりも…カナンさんも大丈夫なの?」
ジュードが心配そうにカナンの体調を気遣う。
カナンは「うん…大丈夫」と柔らかく笑いながら言葉を返す。
魔物も撃退して、周囲の緊張した空気が緩和していく中、アルヴィンは後方から鋭い気圧を感じ取った。
―――ダンッ
銃口が鳴り響いた方向に、他の三人も目が向く。
すると、そこには―――全身水浸しになりながらも立っているプレザがいた。
聞き手をもう片方の手で擦りながら、こちら側を睨んでいる…いや正確にはアルヴィンを。
「折角、一段落していい気分に浸ってんのに水差す真似は野暮だろ?」
地面に書物がバサリと落ちている。
どうやら、ミラもしくはカナンを捕縛しようと術を発動させようとしたが、アルヴィンが発動前に阻止したようだ。
「貴方って人は…ッ! どこまで私の邪魔にすれば気が済むの!」
「依頼人を横から掻っ攫われて、黙っている傭兵なんていねーよ」
感情を荒げるプレザに対し、アルヴィンは冷静だが、少し怒を孕む声音を響かせる。
「…プレザ、貴様の目的はなんだ? カナンを何故に連れて行こうとしている…返答次第では、こちらとて容赦はしないぞ」
カナンをそっと庇うように、ミラは剣の切っ先をプレザに向ける。
「……ミラさん」
「ふっ…ふふふ…」
突如、プレザが笑いだした事にミラは眉を顰める。
「何がおかしい?」
「何も知らない事程、罪な事はないわね。貴方達…ラ・シュガルのみならずア・ジュールからも指名手配される行為をしているのに」
「えっ…それってどういう事なの…」
ラ・シュガルのみならず、ア・ジュールからも目をつけられる事をいつしていたのか…とジュードは目を白黒させる。
「成程、お前はア・ジュールの者か。それでカナンを捕まえようとしていたのか」
「貴女も中に含まれていたわよ、マクスウェル。余計な邪魔が入らなければ…スムーズにいくはずだったけどね」
「待って! ミラさん達は、私達の問題に一切関係ないはずよ」
カナンは真剣な顔でミラの一歩前に出て言う。
「いいえ。あの御方の許可もなく、貴女を強制的に旅に同行させている時点で、マクスウェル含めるその三人の行為は『誘拐罪』に相当するのよ」
「『誘拐罪』…って、あなた達こそ、カナンさんの大切な仲間を指名手配して、カナンさんを追いまわしているじゃないか!
その所為で、カナンさんがどんなにつらい目にあったか、貴女は分かっているんですか!」
ジュードは強い口調で反論する。
「……坊や、貴方はまだ若いから知らないのよ。目に見えている物ばかりが真実じゃないのよ」
プレザは、その言葉に一瞬、眉を下げるものの…すぐに平静な態度に戻り、とうとうあの話題をほのめかした。
「私達は、彼女を“追いまわしている”んじゃないの…“連れ戻そう”としているのよ」
「連れ戻す…だと?」
怪訝そうな顔でミラが言葉をオウム返しに呟く。
ジュードは横目でカナンを見ると…彼女は再び瞼を閉じて震える手を握りしめている。
「まだ分からないの?
あなた達が連れ回しているその御方こそ、ア・ジュール連合国国家元首…ガイアス陛下の次期王妃となられる女性―――【カナン・ルースディ・レンブラント】様だからよ」
・
