第4章:始まりは夜光の都…精霊の主に誘われて


耳元にミラの呻き声が聞こえてきた。

滝のすぐそばにある高い岩の上を見ると、そこには術により身動きの取れないミラと…プレザの姿。


「アルヴィン、カナンさん、ミラが!?」


ジュードも彼女の異変に気付いたようだ。

アルヴィンは銃を手に持ち、彼を追う様にカナンとジュードも岩の下へ近づく。

プレザは、術の手を緩める事無く三人を見下ろす。その視界に入れたのは…アルヴィンだ。

彼を目にするや、プレザは目を鋭く細める。


「…こんな所であうとはね。今はこの娘(こ)に御執心なのかしら?」

「おい、放してくれよ。どんな用かは知らないが、彼女は俺の大事な依頼主(ひと)の仲間なんでね」


アルヴィンは眉を顰めてミラの開放を求めるが、プレザはその言い方が癪に障ったのか、聞く耳を持とうとせず、視線をカナンへ移した。


「…カナン、ようやく帰ってきたのね」


アルヴィンとは打って変わり、その声音は敵意を含んでおらず、むしろ懐かしさと好意的な感情が込められている。

ジュードは、突然現れた魅惑的な女性とカナンの双方を見ながら、アルヴィンに質問せずには居られなかった。


「どういう事…アルヴィン、あの人は一体…」

「…あー、ややこしい事態になっちまった」


頭を掻きながら、アルヴィンは溜息を洩らす。

カナンは、緩慢に首を左右に振ると二人の前に出て、岩の上にいるプレザに言った。


「プレザさん、久しぶりね」

「ええ、二年も見ない間に…貴女、綺麗になったんじゃない?」


和やかに話をする二人に、ジュードはますます困惑してしまう。

囚われているミラも、二人の関係性が気になったのかその対話に耳を傾ける。


「プレザさん、ミラさんを放してもらえる? その人は急いで向かわなければならない場所があるの」

「そうね…貴女の返答次第よ。カナン」


プレザは思案するそぶりをして、さらりと交換条件をほのめかす発言をした。

カナンは、片眉をあげて「それはなに?」と聞いた。


「あの御方は、すぐ近くまでお越しになられている。それが何を意味するか…分かるでしょう?」

「……ッ!」


―――“ガイアスがきている”

その言葉を聞いたカナンは息を呑む。



「あの御方は…わざわざ貴女を迎えに来たの。さあ、こちらにきて…いえ来て頂きます。カナン様」

「………さま?」

「カナン…君は……」


プレザの言い方が相手を敬う言葉に変化した。

ジュードとミラが、カナンを凝視する。

カナンは目を瞑り、胸元に手を当てて、小刻みに肩を震わしている。

端から見ても、緊張と感情の揺れが全身からでているように思えた。


「相手の弱みをチラつかせていたぶるか…随分、卑怯な手を使う様になったんだな」


アルヴィンが冷めた眼差しで、プレザを非難する発言を投げつけた。

その言葉を聞くや、プレザはギッと威嚇するように彼を睨みつける。


「…貴方は黙ってなさい。私は陛下の直々の命を受けているの。邪魔するなら、この娘がどうなるか分からないわよ」

「ぐっ…お前達は…何故、カナンを狙うんだ!?」


痛みに耐えながら、ミラはその問いをぶつけた。


「あら…カナン様、この者達は知りたいようですよ。貴女の事を、ね」


プレザはクスッと挑発するような笑みを浮かべ、滑稽だと言わんばかりにミラとジュードに視線を配る。


「やめなさい!」


カナンが怒鳴り声をあげた。

その声を合図に、周囲にキーンと超音波のような振動が発生する。

ビリビリと電撃のようなものが頬をかする。


(これは…なんて強い『気』だ…!)


あまりの強力な覇気に、ジュードは地に手をついてしまい、アルヴィンは片膝をついて息切れする。

だが、覇気を受けた事で、ミラを拘束していた術式がパリンッと硝子戸が割れるように解除された。


「なんですって…!?」


自らの術が、強制解除された事に衝撃を隠せないプレザ。

よろけながら立ち上がったジュードは、岩肌にある巨大な岩がぶるぶると震えているのに気付く。



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