第4章:始まりは夜光の都…精霊の主に誘われて


ハ・ミルで、カナンとアンジールが戦っていた頃―――ミラ達は【キジル海爆】を進んでいた。

流れ落ちる滝の水飛沫が服に飛んでくるのを気にする間もなく、遭遇する魔物を追い払いながら着々と歩いていた。

しかし、歩行中にジュードの心は晴れる事はなかった。

自分達を追ってきたラ・シュガル兵の所為で、親切にしてくれた村人たちに迷惑をかけた事もあるが、カナンを置き去りにした事が最大の心残りだ。


「おい…青少年、どうした? 村が気になるのか?」


歩きつつも、何度も村の方角を振り返るジュードに、アルヴィンが尋ねてきた。


「うん…村の人達に悪いことしちゃったなって…よくしてくれたのに…」

「ラ・シュガル兵をどうしてほしいともこちらは言っていない」

「そんな言い方しなくても…それに…カナンさんは村の人を助けるために一人残ったんだよ! 僕達だけ…先に行くなんて」


ミラが振り返って言った言葉に、ジュードは声を荒げた。


「カナンは、私達に先に行けと言った。彼女は自分の意志に基づいて行動を起こしたんだ。仮に、私達が残ったとして…それを彼女は望んでいたのか?

折角、彼女がつくった逃げる機会を逃し、あまつさえ彼女の好意を踏みにじる事と同義ではないのか?」


返ってきた回答に、ジュードはうっ…と言葉を詰まらせてしまう。

ミラの言う通り…カナンは自分の意志で村に残った。

その行為は端から見れば無謀にも見えるが、見方を変えれば、自分達を逃す為の策であったのかもしれない。


「気になるのであれば…ジュード。君は戻るといい。短い付き合いだったが、色々感謝している」

「どうして…ミラはそんなに冷静でいられるの?」

「……もっと感傷的になってほしいのか? それは難しいな。君たち人もよく言うだろう。『感傷に浸っている暇はない』とな」


込み上げてくる怒りに近い感情を抑える様に、ジュードは問いかけると、ミラは訳が分からないと言う顔で言う。

どこかぎくしゃくとした空気になりかけている二人を、アルヴィンは腕を組んでやれやれ…と見つめる。


「あのさ…俺が言うのもなんだけど、こんな所で言い争っている場合じゃないだろう?」

「ごめん……分かってるけど、でも…」

「なら、君は人が感傷的になっても、為すべき事を為せると思うのか?」


ミラから、さらに問われた質問に対してジュードは顔を俯けてしまう。


「分からないよ。そんなの…やってみないと…」

「なら、やってみてはどうだ? 君の為すべき事を、そのままの君で…そうすれば自ずと答えに辿り着けるかもしれないぞ」


「そうね。ジュード君が考えて、自分なりの最善の答えをだしていけばいいんじゃない」


ミラの答えに続けるように、後方から聞こえてきた声に、ミラとジュードは勿論、アルヴィンも咄嗟に振りかえり驚く。


「お待たせ、少し遅くなっちゃった」


苦笑しながら、右手をあげて小さく振るカナンの姿があった。


「カナンさん!」


ジュードは思わず声をあげて駆け寄った。


「よく無事に来れたな~。まさか、ラ・シュガル兵全員倒したってわけじゃねーよな」


アルヴィンは、肩に手を廻してきて冗談めいた事を言うとカナンはフフッと口元をあげる。


「80%正解…ってところかしら」

「へっ? いや、まさか…マジか?」


思わぬ返答に、調子の外れた声を出すアルヴィンをよそに、カナンはミラに視線を向けた。

ミラはフッと笑みを浮かべて、カナンが無事に自分達のもとへ辿り着いた事を喜んでいるようだ。


「どうやら、君の“作戦”は成功したようだな」

「ええ、なんとかね…」


「本当に…あのたくさんのラ・シュガル兵を一人で倒しちゃったの!?」


驚愕するジュードに、カナンは被りを振る。


「そうでもないわ。私以外に戦ってくれる人もいてくれたし…あの後でア・ジュールの関係者も駆けつけてくれたから皆に追いつけたのよ」

「ふむ、村人の中にも腕の立つ者がいたのだな」

「よく、ア・ジュールの関係者に捕まらなかったな、おたく…」


髪を掬いあげながら疑問をさらりと口にするアルヴィンに、カナンはこう返した。


「見つかったけど、逃げてきたのよ」

「…へぇ~、そりゃ大変だったな。お疲れさま」

「でも…カナンさんが無事でよかった」


ジュードは心の底から安堵した表情で言う。

話を聞けば、村人達もカナンと戦いに参加した人のおかげで、事なきを得たようだ。


「ありがとう、心配してくれて」


ジュードの肩をポンッと軽く叩いて礼を言った。

柔らかく笑いながら言うカナンに、ジュードは少し照れくさそうに頬を染める。


「さて…カナンも揃った事だ。先へ進もう」


仕切り直しと言わんばかりに、ミラが皆に号令をかける。

それに三人は返事をしたり、頷くと…キジル海爆を再び歩き始めた。



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