第4章:始まりは夜光の都…精霊の主に誘われて


「貴方…普賢さんと会ったのね。彼はどこにいるの?」


カナンが一歩近寄り、ジュードに問いかけるが…彼は首を俯かせて、なかなか答えようとしない。


「その様子だと…クルスニクの槍の犠牲になってしまったか」


答えない彼に変わり、ミラが…代弁するように言った。

その言葉をきくや、カナンはその意味を察したのか「そう…」と呟く。

だが、悲しんでいるというよりも、何か釈然としない表情だ。


「質問には答えた。今度はこちらが聞く番だ。カナン……お前の仲間は、何の目的で研究所に近づいたのだ?」


ミラが問いかけたその刹那、カナンの表情が曇る。


「待って…まずは場所を移動しましょう。増援の兵士がくるみたいよ」

「えっ…どうして分かるんですか?」

「金属が摩擦する音が聞こえてくるからよ」


カナンの指摘した事に、ジュードは耳を澄ますが…それらしき音は全然聞こえない。


「ふむ、早く『イル・ファン』から離れた方がいいな」


ミラは顎に手をあてて頷く。


「それなら海停へいきましょう。あそこなら、人も多いし、それに紛れて船で脱出できるはずよ」

「かいてい…なんだそれは?」


ミラが小首を傾げながら、不思議そうに言葉を返してきた。

まるで初めて聞いたと言わんばかりの様子に、カナンは「え?」と少し驚く。

ジュードに至っては、ハァと呆れたような溜息をもらした。


「…案内しようか」

「そうか。ではよろしく頼む」


「カナンさんも…一緒にきますか?」

「…ええ、説明もまだ終わっていないしね」


ジュードの提案に、ミラは素直に頷き、カナンもまた同行する事を快く承諾した。



◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇



「あいつは…ッ!」


時を同じくして、ラフォート研究所からなんとか脱出した人物がもう一人いた。

銀髪の少女―――四象刃のアグリアだ。

潜入捜査でラ・シュガルの情報を定期的に調べて、主君に届ける…それが彼女の主な任務だ。

だが、今回の『クルスニクの槍』の一件で思わぬアクシデントに遭遇した。


ミラとジュード―――この二人により、仕事を邪魔されたばかりか手痛い目にあい、それがアグリアにとって屈辱だった。

仕返しとして、クルスニクの槍を発動させてやったのだが…二人は危機を逃れたと分かり、悔しさのあまり歯軋りする。

しかし…それ以上に、彼女の心を取り乱す事態が起きた。

二人を助けるように、空から舞い降りてきた人物。

それが、二年前にこの世界から姿を消したあの女性―――カナンだった。


アグリアを信じて、メッセージを託した人。

そして…主君がいまなお愛し続ける女性。



「…くそっ、なんで…なんで今、戻ってきたんだよ!」



鬱屈した思いが胸を締め付け、硬い地面にゴスッと拳を叩きつける。

すると…彼女と共に侵入したスパイが駆け寄ってきた。


「アグリア様、この事を陛下にお伝えすべきでは…」

「うっせーな! 分かってるよ!」


部下を牽制するように怒号をあげると、アグリアは立ち上がり、その場から走り去って行った。


「…喜ばしい事だ」

「ああ、これで陛下の憂いも晴れるぞ。『王妃様』が帰還したのだからな」


スパイ達は小声で語り合った。

去って行ったアグリアとは対照的に、安堵と喜びと露わにして。



5/48ページ
スキ