第4章:始まりは夜光の都…精霊の主に誘われて
カナンは、颯爽と走っていく。
先の豪快な爆発音もだが、イル・ファンの市街地にいる普賢の安否も気になった。
外套を深く被って、顔を隠すと事件現場らしき大きな建物付近を目指した。
街の中は、野次馬や混乱する人々でごった返していた。
普通なら、なかなか前へ進めない状況だが…カナンは地を蹴って、大きく跳躍すると…集う建物の壁を利用して移動していく。
そんな彼女にしかできない芸当を、何人かが目にしてしまったが、周囲が騒いでいるため、あまり注目されないようだ。
現場の研究所付近まで来た時、ピタリと隣接する建物の上で足を止めた。
下で、警備兵に囲まれていた二人の男女がいる。
二人をみた瞬間、カナンはある予感がした。
いや…正確に言うなら、確信に近い直感が働いた。
双剣を手に取ると、シュッと建物から飛び降りて、男女と警備兵との境に着地した。
【イル・ファン脱出!】
ジュードは研究所から落ちて、なんとか川から上がる事は出来た。
その途中、溺れているミラを抱きかかえて、川の縁で休ませる。
彼女は一旦故郷へ戻ると言って、川べりから梯子をあがっていった。
後を追って、ジュードもあがったところ…巡回していた警備員と鉢合わせしてしまったミラが目に入った。
警備兵が攻撃してくる前に、ミラは剣をふるおうとした…が、逆に剣の重みに振り回されて、よろけてしまう。
先程の強靭な力を誇っていたのが嘘のように。
案の定…予想はあたっていた。
大精霊を失った事で、ミラは、戦闘とは無縁の一般人へなってしまったのだ。
「魔神拳!」
仕方なく、ジュードは拳から鋭い闘気を放ち、警備兵を気絶させた。
だが、増援にきた兵士達に囲まれてしまい、身動きが取れなくなってしまう。
「…どうしよう…」
「…不用意だな。無関係を装えばいいものを」
「僕だってそうしたかったよ…でも…」
ミラを見捨てる事ができなかった。
あの研究所で、大精霊たちが消えかかる瞬間、ミラを助ける様に頼まれたのだ。
「こうなったら…」
ミラが何か仕掛けようとしたその刹那、空から何かが飛んできた。
いや…人が舞いおりてきた。
外套を羽織り、顔も分からないが…両手に双剣をもっている。
「なんだ、貴様は! こいつらの仲間か!」
警備兵の一人がそう叫んだが…数秒立たない内に、バタリと倒れてしまう。
連鎖するように、周囲にいた兵士全員がバタバタと倒れていった。
それに、ジュードは勿論、ミラも驚きの表情をする。
その人物はふぅ…と一息つくと、こちら側に顔を向ける。
「助かった、感謝する」
ミラは、臆する事無く素直に感謝の言葉を言った。
「…えっと…その…ありがとうございます」
ジュードは視線を向けられ、逡巡するが…とりあえず助けてもらったのだから…と、御礼の言葉をいう。
「どういたしまして。ところでお二人にお尋ねしたい事があるんですけど…」
そう言うと、その人は外套を外して顔を露わにした。
後ろがショートで、横が長い薄紫色の女性だ。
知的で大人な雰囲気を醸し出しており、ミラとは違った魅力のある人だとジュードは感じた。
「何をだ?」
ミラは小首を傾げて問い返すと、女性はこう言葉を続ける。
「研究所の方で事件が起きたみたいだけど…その騒ぎの中心人物って、貴方達?」
そう尋ねられるや、ジュードは顔を強張らせる。
「ああ、その通りだ」
「ミラ…!」
対して、ミラはその質問に堂々と、悪びれる事無く肯定の意を示した。
自ら犯人だと名乗った事に、ジュードは慌てて制しようとするが、ミラはきょとんとする。
「ジュード…何故、声を荒げる? 事実だろう」
「そうだけど…いや、それを他の人にバラすべきじゃ…」
「そう。ならそこで…ある人物を見かけなかった?」
意外だった。
女性は、ミラとジュードが犯人と言う事はあまり気にしていない。
「その人物の特徴は?」
「淡い海色の髪で、爽やかな印象を受ける20代の青年よ。私の知人なの」
ジュードは目を大きく見開いた。
何故なら、彼女が語ると苦笑とピッタリ一致する男性が…研究所にいたからだ。
「あの…もしかして…貴女の名前は『カナン』さんですか?」
「…! そうよ。けれど、なんで私の名前を…?」
その予想は確信へと変わった。
普賢が消える間際に言った…『カナン』が彼女なのだと判明した事で。
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