第4章:始まりは夜光の都…精霊の主に誘われて
時間軸は少し前にさかのぼる。
普賢は、イル・ファン郊外にある王立機関ラフォート研究所へ侵入していた。
一年前、仲間の一人…アンジールとともに、この世界の調査をする事を決めた時…それぞれ担当を決めたのだ。
アンジールは、ア・ジュールを中心に…普賢はラ・シュガルを担当する事になった。
調査を進めていく内に、ラ・シュガルが秘密裏に非人道的な行為をしている事がだんだんと分かってきた。
あのア・ジュールの国家元首の言葉通りだった事を改めて実感し、少し複雑な気分になるものの、調査の手を休める事はなかった。
今回、精霊術を利用した兵器の情報を掴んだ。
情報源は…微精霊。
彼ら曰く、その兵器は自分達の生命を脅かす危険なものらしい。
精霊を殺す事は、自然界の循環を乱す事にも繋がる。
警備兵に見つからないよう、うまくかいくぐり、研究所の最奥の区画へ入った普賢。
そこには―――大きな土台の上に支えられた大砲の様な巨大な兵器が鎮座していた。
「これは…」
到底、平和的な利用に使うものとは感じられない。
普賢は思わず眉根を寄せて、その兵器を見つめる。
「悲しいな…どうして、人はこんな物を作ってしまうんだろう」
顔を少し俯けて、哀しそうに本音を小声で吐露した。
感傷に浸っている場合ではない。
この兵器を詳しく調べなくては…そう思い、普賢はその兵器に近付く。
兵器のすぐ下にある機械パネルがあった。
そのパネルをカチカチと操作すると、画面に文字が浮かびあがる。
「ふむふむ…これは…」
「そこで何をしている?」
背後から声が聞こえてきた…肩越しに後ろを見やると、二人の人物がいた。
一人は女性。
年齢は20代くらいで、長い波打つような金髪に、ガーネットのような深紅の瞳。
凛々しく、高貴な雰囲気を纏う美しい顔立ちだ。
もう一人は中性的な感じだが、身に纏う衣装から少年だと思われる。
顔つきから推定して、年齢は10代半ば位だろう。
黒い髪を短く清潔に切り整え、琥珀色に近い瞳には知性を宿している。
「こんばんは。二人はこの研究所の職員さん…っていう感じじゃなさそうだね」
「質問に答えろ、お前は…ここで何をしているんだ?」
有無を言わさず、命令口調で問いかける女性に、普賢は苦笑いをする。
「み、ミラ…そんな風に言ったら、逆に答えづらくなると思うよ」
見ていられなくなったのか、少年が恐縮そうな表情で会話に入ってきた。
ささやかなフォローをしてくれた事に、内心感謝しつつ、普賢は口を開く。
「質問に答えると…僕はこの研究所に勝手に入ってきた招かれざる客かな。この《クルスニクの槍》を調べるためにね」
この兵器の名前は《クルスニクの槍》
画面にでてきた文字の中に、その名が記されていた。
「《クルスニクの槍》…創世記の賢者の名前だね」
それをきいた少年が顎に手を当てて言った。
「ふん。クルスニクを冠するとはな。これが人の皮肉というものか」
ミラ…と呼ばれた女性は吐き捨てるように、兵器をにらみつける。
「さて、次は僕の番だけど…君達はここで何をしているのかな? ラ・シュガルの兵器を見物でもしに来たの?」
「い、いえ…違います! 僕達は…」
「私は、この兵器を破壊するために侵入した」
しどろもどろ言う少年の言葉を塞ぐ様に、ミラがハッキリと回答を示した。
「破壊…大胆な事を考えているね、君は」
「私はマクスウェル。世界の循環を壊すものを野放しにしておけない」
《マクスウェル》―――その名を耳にした瞬間、普賢は少し目を見開く。
「マクスウェルって…」
ミラに問いかけようとした瞬間、彼女は手を上下左右に交差させ、複雑な術式をつくりあげる。
それを合図に、周辺に空気が揺らぎ、赤、青、緑、黄と4体の生命体が出現した。
「四大精霊…」
「まさか…ミラがマクスウェルって本当…!?」
普賢と少年が驚く中、ミラは四大精霊に対して命令をくだす。
「やるぞ。人と精霊に害なすこれを破壊する!」
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