【1】巡り会えた【希望の光】、つながりあう【心】と【想い】
その会話から数時間後、既に本棚の書物をクロスは数冊読み終えていた。
その横で、ヴァンスは机で途中であったのだろう書類をまとめている。
各自で黙々と集中していると、そこへリエの声が響いてきた。
「クロスちゃん、ヴァンス、ご飯ができたよ~」
「あっ…リエさん」
「ああ、すぐ行く」
進めていた筆を一旦机の端に置いて、ヴァンスは立ちあがる。
それを見て、クロスもまた読みかけの本を元から挟まっていたしおりを差し込んで閉じた。
障子をあけて、長い廊下を足を進めるヴァンスの後を追うように、クロスも歩いてついて行く。
外を見ようと首を左右に動かす。
空には夕陽が昇り始めており、数羽の烏がカァカァと夜が訪れる合図を鳴らしている。
家の周囲は…距離をあけて沢山の木々が生い茂り、まるでその家自体を守るように囲む『森』を形成していた。
目を凝らして遠方を眺めると、夕陽に照らされた黄金色の草原の風景がチラリと見えた。
その草原の中で誰かがいて、一瞬こちらを振り向いた。
銀髪の少女がニコリと微笑んでクロスに手を振っている。
「あの子は…」
「おい、どうした?」
立ち止まっているクロスに、ヴァンスは声をかけた。
ハッと気がついたクロスは、ヴァンスの方を見る。
「あの…今、あそこに…」
「草原がどうした?」
「はい、草原に女の子……あれっ?」
再び、視線を戻した時には、そこにいたはずの少女はいなくなっていた。
「いない…」
「…書籍を読みすぎて、錯覚でも起こしたのだろう」
「そうかな…」
首を傾げながら、どこか納得がいかないクロス。
ヴァンスは、その場から動かないクロスに言葉を掛ける。
「ほら…急ぐぞ。夕飯が冷める」
「あっ、そうですね!」
クロスが目にした少女は、現か幻か…
頭に疑問が渦巻いていたものの、あまりヴァンスを待たすといけないと感じたクロスは、この謎をひとまず忘れる事にした。
それから廊下の角を左に曲がり、まっすぐの方向を進んでいき、奥の大きな部屋の前までたどり着いた。
ヴァンスが片手で障子をシュッと開けると、その中でリエが正座して待っていた。
「待たせたな」
「いいえ、おかずを配り終えたところだったから丁度いいタイミングよ」
「すみません、リエさん。ご飯まで作ってもらって…」
「クロスちゃんは、大事なお客様だもの…こちらがおもてなしするのは当然の事だよ。さぁ、此処に座りなさい」
リエに言われた通りに、クロスは長机の中央に正座する形で座る。その向かい側に、ヴァンスが楽な姿勢で座り込む。
長机に視線を向けると…クロスは目を大きく見開いた。
湯気がふわりと出ているまさに出来立ての美味しそうな料理が、彼女の視界全体を埋め尽くす様に置かれている。
たくさんの御馳走を目にしたクロスは、「すごいー!」と言って目をキラキラと輝かせる。
それとは対照的にヴァンスは呆れた表情で、リエにボソリと呟く。
「作りすぎだろ…」
「フフ、久しぶりに沢山作っちゃった」
「リエさん…凄いです! これ全部食べていいんですか!?」
「うん、いいよ。どんどん食べてね。おかわりはいっぱいあるから」
「わーい♪」
「…無茶するなよ、確実に腹壊すぞ」
ヴァンスが注意する言葉を聞きつつも、クロスはウキウキしている。
リエは「それではいただきましょうか」と両手を合わせる。
彼女と同じように二人も手を合わせて、3人一斉に食事の挨拶をした。
「「「いただきます」」」
クロスはどれから食べようか、と周りのお皿を見渡す。
まず選んだ料理は『ハンバーグ』だ。
とり箸で、大皿にあるハンバーグをひとつを取って自分のお皿にのせる。
程よい大きさで、上にスライスチーズをのせており、それが熱によってトロッと柔らかく溶けて、肉の香ばしい匂いと重なりあい、鼻や喉元を刺激して食欲をそそる。
箸で食べやすい大きさに分けてみると、その部分から肉汁がジュワッと滴り落ちる。
クロスはそれを口に入れて、ゆっくりと噛み締める。
すると、突然顔を俯けてしまう。
「うっ…」
「あらっ…口に合わなかったかしら?」
「火傷でもしたか?」
リエとヴァンスは、心配そうに尋ねるが…
「おいしーい!!」
あまりにも美味だったので、クロスは目を瞑ってハンバーグの味を大絶賛した。
それ見て、リエは「よかった」と微笑みを浮かべた。
それから、次々に色んな料理をお皿にのせていき、クロスはモグモグと美味しく頂いていく。
「この海老ピラフ、さっぱりしていて美味しい~」
「隠し味に柑橘系の果物を少量入れたのよ」
「この牛肉のロール巻きの具…シャキシャキしているけれど、何を巻いているんですか?」
「モヤシよ、味が染みやすいからお肉と相性が合うの」
「このパスタ、きのこがいっぱいだ~」
「近くの森で取れた新鮮なきのこだよ。バターとお醤油を加えて、和風ベースにしてみました」
「このレモンパイ、サクサクしててクリームがたっぷりだ…美味しい~♪」
「私も料理を褒めてくれて嬉しい♪」
そんな二人のぽわーんとしたほのぼの会話のやりとりを見ながら、ヴァンスは日本酒を一口飲む。
「見てて飽きんな、この二人は…」
二人に聞こえないくらいの小声で呟いた。
食事を楽しんでいて、クロスにはある感情が湧き起こっていた。
機関の皆と食事を食べている時と…似ているようで異なる感覚だ。
何だろう…この気持ち…
懐かしくて、当たり前の様で…胸一杯に満たされるこの想い。
モグモグと口を動かしながら、二人をゆっくり眺めるクロス。
ヴァンスが料理を少しずつ食べているところで、リエが彼の片手に持つ小さな杯にお酒を補充している。
リエは注がれる視線に気がついて、クロスの方を振り向く。
「どうしたの? ご飯のおかわり欲しい?」
フワリと柔らかく微笑みながら、クロスに尋ねてきた。
クロスは、頬を桜色に染めて「はい」と頷きながら茶碗をリエに差し出す。
リエはニコニコしながら、茶碗にごはんを盛り付けてあげた。
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