【1】巡り会えた【希望の光】、つながりあう【心】と【想い】



クロスは、ふと視線を机の横にある小型の本棚に移す。

題名から見て、専門書が上段に立ち並ぶ中で、中段に納まっているある書物が目にとまる。

あの本は確か……以前、【輝ける庭】に住んでいた時に、書庫室に同じモノがあった記憶がある。


クロスの様子に気がついたのか、ヴァンスは彼女の視線の先にある本棚の書物に手を掛ける。

そのまま、本を引き出すとクロスの目の前にそれを差し出す。


「…読むか」

「あっ、ありがとうございます!」


クロスは手渡された書物を慎重に開いて、中身を確認する。


(ああ、間違いない。これは…アンセム様が執筆した本だ)


クロスは懐かしそうに頬を緩めて、1頁ずつじっくりとその内容を熟読していく。

思い起こせば…この本を執筆中の頃から、心に関する研究を巡ってアンセム様とゼアノートが言い争っていた。

その度に、二人を落ち着かせるために『力』を使った。

でも…結局は、二人の関係を修復できずに【事件】が起こってしまった。


(あの頃に戻れたら…やり直せるかな…)

「……過去に執着するのか?」

「えっ…」


隣で本を読みながら呟いたヴァンスの一言に、クロスは声を漏らす。


「何で…あたしの考えている事が分かるんですか?」

「気を悪くさせたならすまないな…俺は、周りのあらゆるモノの『心の声』が聞こえる特異体質なのでな」

「……!? 心の声が聞こえる…それって…」

「物心ついた時から備わっていた能力だ」


それを聞いて、クロスはある事を思い出した。

あの【混沌の迷宮】にいる時、ヴァンスがハートレスから飛び出した『心』をその身で吸収していた事を…

まさか…このヒトは…自分と同じように…


「もしかして…あなたも『心』を背負っているの?」


唇を震わせて、期待と不安の入り混じった瞳で問い掛けた。


「ああ、そういうことになるな」


彼は、その質問に難なく回答した。

クロスは、持っていた書物を手から落としてしまう。

落とした衝撃で、本がパラパラと頁を開いていく。


「ヴァンスさんは…苦しくないの?」

「何がだ…」

「あたし、今でも自分の身体にいくつもの『心』が取りついているんです。時々…それが苦しくなる事があるから…」


どこか哀しげに物語るクロスに、ヴァンスは答える。


「…安心しろ、とっくの昔に身体に耐性は身についた」

「そうなんだ、良かった…」


安堵の表情を浮かべるクロスにヴァンスは、続けて言葉を紡ぐ。


「先の話の続きだが、お前は自分の現状をどう思っている…不満か?」


ヴァンスの質問に対して、クロスは首を横に振る。


「あたしの居場所は、皆のいる処だから…不満なんてない。でも……」


クロスが途中で言葉を言おうとしたが、押し留めてしまう。

クロスの代わりにヴァンスが、彼女の言おうとした事柄を口にした。


「『キングダムハーツ』が完成する事で、また過ちが繰り返されるのではないか…その危険性に恐怖を抱いているのだろう?」


クロスは、今度は無言のまま素直に首を縦に振った。


「機関はこのままでいいのかな…って時々感じるんです。でも、独りになりたくない…大切な仲間も失いたくない! あたしはどうしたらいいんだろう…?」


クロスは、ずっと胸に秘めていた思いを吐き出す様に言った。

顔を俯けるクロスに対して、ヴァンスはある言葉を口にする。


「おい…口を開けろ」

「えっ…?」


突如、言われた事にクロスは反射的に首をあげて、ヴァンスの方を振り向いた。

すると、クロスの少し開いていた口に、ヴァンスは何か丸い物体を放り込んだ。

口内に入ってきた異物にクロスは思わず、口を閉じてしまう。何が何だか分からずに、むぐむぐと口を動かす。

その時、口の中でほのかに甘い林檎の味がしてきた。

噛んでみると、クニュクニュした柔らかい弾力がして、噛めば噛むほど甘みが口全体に広がっていく。

そのまま、それを喉の奥へゴクンと呑みこむ。


「美味しい…!」

「少しは落ち着いたか?」


薄らと笑みを浮かべながら、クロスを見るヴァンス。

机の下に置いてあった木造りの菓子入れを表に出す。その中の『グミ』をひとつ摘むと、自らの口に入れて味わう。

その菓子入れを、自分とクロスの座っている真中に移動させた。

クロスは色とりどりの『グミ』に眼を輝かせながら、ヴァンスをチラッと一瞥する。


「食べていいんですか?」

「ああ」

「本当に…! じゃあ、いただきます~♪」


甘味が大好きなクロスは、様々な色のグミを一粒ずつ堪能していく。

食べている最中に、ヴァンスがある事を言い始めた。


「問題を見直してみろ…」

「見直す…?」


「ヒトは生ある限り、多くの問題に直面する。それが2つの選択を迫られる場合、必ずどちらかを選択しなくてはならない。

例え、双方が自分にとって大切なモノだろうとな…。どちらかを選び、残った方を切り捨てるしかない」


「……」

「だからこそ、その問題を自分の目で見極めろ。本当に自分が成したい事、守りたいモノをな…」


彼の言葉は、クロスにとって…ある種の苦しい環境へ突き放す言い方かもしれない。

けれども…彼女はいずれは選ばなくてはいけない。

このまま、機関のために尽くすか…それとも…

クロスはまっすぐヴァンスを見上げる。


「ありがとう、ヴァンスさん。あたし…考えてみようと思います、これからの事を…」

「…すぐに答えを出す必要はない。お前の心の奥の感情に従うといい」

「はい!」


元気な声で応答するクロスに、ヴァンスは頭を軽く撫でる。

そんな二人の様子を、台所へ料理の材料を移動させていたリエは、微笑ましく眺めていた。



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