【3】独創Girlはチャレンジャー☆
「つかぬ事を覗いますが、リエさん」
「なんですか?」
「お付き合いしている方はいらっしゃいますか?」
この質問は、あの乳もみ事件時に、ふと頭によぎったので、試しに聞いてみた。
リエさんは、普通に「はい」と返事をくれた。あっ、やっぱりいるんだ…彼氏さん。
「正確に言うと、内縁の夫ですね」
「へぇー、夫ね…お…ぶふぉおおお!?」
あまりにも、衝撃的な単語に飲んでいた飲み物を吹き出してしまう。
向かい側に座っていたリエさんは身体を横に向けてそれを見事にかわしたが、逆にその後ろに座る黒いコート着た不審者にあたってしまった。
「クルミさん、気をつけないと…あの、大丈夫ですか?」
「いや…問題ない」
こちら側の不注意で衣服が汚れたにもかかわらず、黒コートの人は、許してくれた。
あれっ、あの声…どこか聞いた事がある様な? デジャヴ…?
まあ、私に非があるのだし「すみませーん」と可愛らしい声で謝罪はしておいた。
心なしか、その男性(声からして、初老の男だと判断した)は、「いいや…別に…」とどこか、怒を含んだ声を漏らしつつも、その場を後にする。
……あっ、別の席に移動した。
まあ、当然と言えばそれまでだが、態度がなんかムカつく。
「驚かせてしまって…ごめんなさい」
「へっ!? あっいえいえ、そんなお見苦しいところ見せてしまって、こっちこそすみません」
何故、リエさんが謝る必要があるのか…。元は私が口に含んだ液体をぶちまけた事なのだから、謝るのはこっちだろうに。
あ、そうか…。あの黒コート着た親父に、内心ムカついていた感情を、顔に薄らと滲ませていた所為か。
悪い事をしたな…リエさん、ホンマにすみません…。
あっ、言い忘れていたけど、私達、別の世界に最近、開店したオープンカフェにきているのですよ。
私は、飲んでいたのはストレートティー(に見せかけた砂糖たっぷりの激甘ティー)だ。
その御供は、夏限定のマンゴーとココナッツをふんだんに使ったケーキ。フルーティーな味わいに舌鼓を打っている。
リエさんは、口溶けの良いフレッシュクリームを使ったフルーツロールケーキと、オレンジジュースをチョイスしている。
うん…気分的に、初々しい高校生のカップルに見えなくないか? 私達…。
いえいえ、勿論テラ一筋ですよ。
でもな…こういう綺麗で清楚な女性と向き合っていると、どうも妄想してしまうのですよ。
果たして、リエさんをあえが……ゴホン、夢中にさせる男ってどんな人なのかな~と。
「話戻しますと…結婚していらっしゃるんですね」
「はい、そうですよ」
「あの~、差支えなければどんな方ですか?」
「私より8歳ほど年上ですね。うーん、気難しい人かな。根は優しくていい人なんですけど」
8歳の年の差カップル…!?
離れていますね、年上…気難しい…俺様系ですか?
まあ、慈愛の女神さまとしか言えない性格故に、自分にはない要素を持つ正反対の男性に惹かれるのかもしれない。
年上…となると、老けているのだろうか…もし、マスター・ゼアノートのような爺さんならば、丁重に離縁する事をお勧めしたい。
マスターの様な男性ならまだしも、あのしわしわのシャボン玉の御隠居さんのような風貌なら、私だったら、即効、御免こうむりたい。
やばい…顔を想像していく内に、だんだん知りたくなってきてしまったよ。
「クルミさん、声に出していますよ」
「へっ!? あー、マジですか~」
リエが苦笑いを零し、周囲のお客様や従業員等までもがポカーンと口を開けたり、若干、耳を傾けて野次馬根性を出していたりする。
あ、さっき、席を移動した黒コートの親父さんが肩を震わせている。
どうしたんだろ? 痙攣起こして、持病でも抱えてるんだろうか?
すると、リエさんが少し立ち上がり、こちらに顔を接近してくる。
えっ! なんですか…こっこれはドッキリ…。
「夫の写真を持っていますけれど、御覧になりますか?」
耳元でそぉーと優しい声音が響く。
クルミの耳元で、リエが他の人に聞こえないように小声で囁いたのだ。
「はっはい…! 喜んで…!」
「あの…? クルミさん、鼻を押さえていますけど…大丈夫ですか?」
「あっ大丈夫です! 身体は頑丈なのがとりえなので…」
危うく、鼻から紅い液を出しそうになったのをティッシュで押さえながら、どこか興奮したような声を出す。
私を心配そうに見つめるそこのお姉さん…。
これは助言です! 男に顔を近づけるのは控えた方がいいですよ。
ヤバい事態に陥りますから!
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