【7】視察と運命の出会いは同時並行で



「ふぅ…やっぱりこうなるか」


二時間経過した頃には、食事初めのような賑わいから一転、静かな空間が生まれていた。

メラスキュラは酔いが回り、デリエリは満腹になった事と疲れから寝息を立てていた。


「すまない、部屋を借りるよ」

「どうぞ」


ヴァイスが眠るメラスキュラに毛布をかけていると、モンスピートがデリエリを横抱きにして寝室へ連れて行った。

通り過ぎる彼等を横目で見つつ、エスタロッサはワインを味わっている。


「エルもそろそろ寝たらどうだ?」

「生憎、早寝するほど酔えてねえんだ」

「飲みすぎて寝転がられると困るんだよ」


以前、エスタロッサが単独で此処に来た際に朝陽が昇るまで酒を飲み続けて、こちらが起床した時には床で爆睡していた事があった。

寝床へ移動させるために、負担がかかってしまうこちらの身にもなってほしい。


「安心しろ、そこまで飲まねえよ」

「じゃあ、今飲んでいるヤツで最後にするんだな」

「ん~…もう二樽だけ」


ズルズルと延長する気でいる幼馴染の頭を、ヴァイスは「こらっ」と軽く平手チョップした。


「いってーな」

「お前って奴は…節度を心掛けろ」

「へいへい…分かったよ」


渋々といった顔で、エスタロッサは残っている料理…フライドポテトを口に放り込む。


「……なぁ、ヴァイス」

「なんだ?」


食べ終えて空になった食器を洗っていると、エスタロッサが話しかけてきた。

彼が食事の最中に語る事は、敵対部族との戦況や魔界の状況、周囲の人々の近況といった話題がメインである。


「お前と同じ左遷されて、十戒の補佐になったヤツ…また別のところに行っちまったぞ」

「へぇ~…意欲的だったのに何かヘマをしてしまったのか?」

「さぁな? 新しい部隊でそこそこうまくやってるんじゃねえか」


エスタロッサは興味なさそうにパンをがぶりとかじる。

その態度に、ヴァイスは思うところはあるものの…深く追及はせず、洗い物を続ける。


「なぁ、ヴァイス…お前、此処にいて退屈しないか?」

「いや、充実してるけど」

「狩りして、薬草取って、研究の繰り返し。時たま侵入する奴らを罰して…領地を一人で管理する単調な日常が続ける事が、か?」


辟易した口調で言うエスタロッサ。


「満足しているから問題ないよ」


ヴァイスは、食器を拭きつつさらりと答えを返す。

その回答が気に入らなかったのか、エスタロッサは眉間に皺を寄せる。


「ヴァイス、俺はな…お前がこんなところで埋もれている事自体、納得してねえんだ」

「エル…」

「お前もお前だ…本来なら、空席になっている【十戒】の二席に入れる実力があるのに、こんな辺鄙な場所を左遷先に選びやがって」

(結局、そこに話題をもっていくんかい)


ヴァイスは内心、ツッコみを入れながら幼馴染が紡ぐ言葉に耳を傾ける。


「なぁ、ヴァイス。いい加減帰ってこいよ」

「無茶言うな。俺がいなくなったら、此処を誰が管理するんだ?」


そう言いつつも、ヴァイス自身ももしも…の事を考え始めていた。

一応、自分が留守にしなければならない時は下級魔神を配備しているが、戦況次第で長期的に離れなければならない。

また、エスタロッサが言うように上司(魔神王)から呼び戻される可能性も(微々たるものだが)ある。

…そうなった場合はやむを得ない。


だが、領地内の巡回は勿論、この領地に植えた作物や薬草をこまめに世話できる人材がいるのか?

いたとしても、引き継ぎ作業を行う必要がある…難しい問題だ。


「その件だけどよ…」


悶々と思考していたヴァイスを現実に引き戻したのは、エスタロッサだった。


「今、俺とメラで探している」

「えっ、誰を…?」

「だから、お前の代理になりそうなヤツさ。非戦闘員中心に…」


幼馴染二人が、勝手に人材募集を行っていたという思わぬ事実に、ヴァイスはなんとも形容しがたい顔を浮かべる。


「お前なぁ…その事、魔神王様はご存じなのか?」

「一応な。親父からは今のところ『やめろ』とか言われねえから問題ないんだろ」


ヴァイスははぁ…と小さく溜息を漏らすと、作業を一時中断した。


「それで…集まっているのか?」

「興味を持ってる奴らが数名いる。だが、この領地の前の評判の所為でなかなか首を縦に振らねえ」

「無理強いさせないでくれよ。その人達にも家庭や都合があるんだから…」


確かに、この領地はヴァイスが赴任する前までは同胞の間では実質上の『島流し』の場所として有名であった。

ヴァイスの働きにより、上層部の間では認識は変化してきているが、一般の庶民の間ではまだ古いイメージが根強いようだ。


「エルも…気持ちは有難いけれど、命令が下されるまでは、俺はこの領地の任務を続けさせてもらうよ」


なんだかんだで、此処の暮らしが気に入っているし…という本音は敢えて口に出さなかった。

言わずとも、エスタロッサにも伝わっているだろう。

むぅ~…と眉をさらに顰めて拗ねた子どものように口を尖らせたのが何よりの証拠だ。


「俺は諦めねえぞ…」

「そう言って無茶な事されると、こっちが困るから程々にしてくれ」

「イヤだ…ぜったいに…見つけて…やる」


エスタロッサの瞼が徐々に下りつつある。

任務と長時間に移動…それらの疲労が、今になって現れてきたようだ。


「俺は……やくそく…したんだ」

「…約束?」

「せん…せい…と…」


言葉の途中でエスタロッサは眠ってしまった。


「やれやれ…世話が焼けるな」


ヴァイスは微苦笑すると、毛布をもう一枚運ぶために一旦、その場から離れる事にした。




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