【7】視察と運命の出会いは同時並行で



「それで、お嬢さんはお友達を探していると聞いたが…」

「はい」


料理中のヴァイスに代わり、モンスピートは取り調べを行っていた。

此処に来た時よりも、目の前の彼女は緊張が適度に解れたのか、心に余裕をもって受け答えしている。


(ヴァイスのおかげだね…)


ヴァイスが威圧的にならずに、会話のやり取りをしたため、彼女…ラザラスとの間に信頼関係が生まれた事もプラスに働いた。

魔神族に対する恐怖心が薄らいだ事もあり、入れ替わってもスムーズに会話ができている。


「残念だけど、そういった特徴の女性は、我らの領土では確認されていない」

「左様ですか…」

「…かといって、さっきヴァイスも言っていたけど、お嬢さんを何の保証もなしに外へ出す訳にもいかないんだ」


故意ではなかろうと、領土に無断で足を踏み入れた時点で捕縛対象だ。

これが、敵対する種族であれば、既定のやり方で処罰すればいい。

問題は、ラザラスが『異世界人』だという事である。


(難しいな…ヴァイスでなくとも、判断に悩むよ)


魔神族の頂点にあたる現在の魔神王はその名にふさわしく、多くの配下を統治するための圧倒的な力と知性のある人物だ。

反抗する敵を容赦なく切り捨てるだけの冷酷な一面はあるが、有能だったり、利のある人材にはそれ相応に対価を払う。

仮に、対象者が異世界出身だったり、その血を受け継ぐ者であろうとも…。


(最終決定は、此処の管理人であるヴァイスが行う。…だが、この娘の存在をあの御方に知らせておくべきか)


モンスピートは髭を指先で撫でながら、目の先にいるラザラスの観察を続ける。


「モンスピートさん」

「ん? 何かね?」

「一つだけ、質問を口にする事をお許しいただけますか?」


今まで、こちら側からの問いかけにしか応答していなかったラザラスが不意に質問したいと言い出した。

事前に許可を求めるあたり、無闇に発言できる立場ではないのだと自覚している所は好ましい。


「どうぞ」

「先程、ヴァイスハルトさんから事情聴取されている時に気になった事があります」


お茶菓子をもらって、軽く談話していた時…彼は小声で呟いた。



『―――会うのは、三人目か』



神妙な面持ちで口にしたその言葉。

その単語に、ラザラスはある引っ掛かりを覚えた。


「…もしかして、ヴァイスハルトさんは過去に異世界の人と面識を持った事があるんじゃないかと思いまして」


彼女からのその言葉に、モンスピートの顔が強張る。


「不躾でしたね…失礼しました」


彼の表情の変化で、口にした質問がまずい内容だったとすぐに察して、ラザラスは謝った。


「…いいや、その通りだよ」

「…ッ!」

「ヴァイスは…私や他の同胞も含めてか、異世界の住民と接触した事はある」


モンスピートは複雑そうな表情で続ける。


「だが…」

「おい、モンスピート」


その時、モンスピートの言葉が遮られた。

…扉付近で楽な姿勢で座り、二人のやり取りを傍聴していたデリエリによって。


「ケツから言って、喋りすぎだ」

「ごめん…そうだね」


相方からの指摘に、モンスピートは確かに…と話を中断した。

そして、デリエリは視線をラザラスへ移した。


「おい、お前」

「…な、なんでしょうか?」

「お前…黒ずくめの外套を纏った男を知ってるか?」


突然振られた質問に、ラザラスは戸惑う。


「いいえ…知り合いにそんな方はいませんし、見かけた事もありません」


十秒くらいで、ラザラスは正直に答えた。

デリエリの鋭い眼光が突き刺さるが…それに対してラザラスは真っ直ぐ目を見据える。

…決して、嘘偽りは述べていないと無言のメッセージを送るかのように。


「…ならいい」


ラザラスの言葉を一応信じたのか、デリエリはそう言うと立ち上がった。



「言っておくが…ヴァイスがお人好しだからってつけあがるなよ。ちょっとでも、おかしな真似してみろ…

―――その時は容赦なく狩る」



デリエリの身体から一瞬だけ殺気が溢れだす。

濃厚なそれがラザラスの頬を横切るや、ビリビリと痛みを発した。


「小腹が減ったから戻る」


デリエリはそう告げると、扉を開けて一階へ向かった。




【迷い人の素性】




「すまないねぇ…刺激が強かっただろう?」


頬を指先で擦っていると、モンスピートが詫びを入れた。


「デリエリ…あの子は少々敏感でね。敵対部族にもだけど…異世界の住民に対しても」

「…差支えなければ、教えて頂けますか?」


デリエリのあの反応を目にして、ラザラスはある仮の答えを導き出した。

過去に、この世界に降り立った異世界人が、ヴァイスや他の魔神族に対して…何かやらかしてしまったのでは、と。

モンスピートはふぅ…と息をつくと、唇を動かす。


「昔ね…私達の同胞が誘拐されたんだ。漆黒色の外套で身を隠した男に…」

「ゆうかい…って」

「その被害者は、ヴァイスの義理の母親。それから二年後に…ヴァイス自身もかどわかされそうになった」


モンスピートは語る事にした。

…ヴァイスの過去を。

そして、関連した二つの事件の影響によって“魔神族が、異世界人にどんな考えを抱いているのか”を。





【つづく】

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