【7】視察と運命の出会いは同時並行で


五年前に栽培に成功した茶葉(アッサムに近い味の方)を使う。

ストレートでもいいけれど、今日はメラやリリがいるから彼女達が好きなミルクティーにしよう。

朝、汲んできた新鮮な水を強火で沸かす。

温めておいたポットに人数分の茶葉を入れて、沸騰したお湯を入れて二~四分むらす。

それから茶葉をこして…常温のミルクをカップに注いでいく。


「はい。みんな、これ飲んで」


淹れたてのミルクティーのカップを、エル、メラ、リリ、モンさんに渡していく。


「はぁ~v おいし~…」

「ん、あったまる…」


メラとリリは好物のミルクティーを味わって、ほんわりしている。

二人のそんな表情は、年頃の可愛い女の子そのものだ。

戦場で霊魂を操る魔法を駆使したり、男顔負けの格闘術で敵を一網打尽にする猛者とは…とても思えません。


「つづいて、朝の内に作っておいたコレもどうぞ」


薬草取りに行く前に、午後のお菓子も作っておいた。

…バタークッキー、プレーンと木の実入りの二種類。

これを含めるお菓子類を生前みたいに作れるようにする過程が大変だった。

特に、材料の安定した確保と機材をゲットするのに骨が折れたが、今ではいい思い出である。

クッキーもオムレツ同様に、魔神族の間で好評だ。

特に…甘い物好きな人から。


「おー、待ってました」


エルが、山盛りのクッキーの中から三枚を器用に指で取ると口の中へ放り入れた。

サクサクと小気味いい音を響かせ、十秒も経たない内に呑みこむ。


「やっぱ、ヴァイスが作ったのは一味違うな…特に木の実入りがうめえ」

「…って一人でそんなに取ってぇええ!」


さらに、続けて五枚のクッキーをとったエルに、メラが抜け駆け厳禁とそれが乗せられた大皿を奪取する。

メラが纏っている闇の触手で支えている皿から、リリは二枚クッキーを取って、ひょーいと口の中へ入れた…ちゃっかりしてるな。


「んん? ヴァイス。それは?」

「コレ? 新しい試作品」


エルの疑問に、俺は簡潔に答える。

冷蔵庫に相当する場所から取り出した、丸底の器に乗せられた黄色の物体。

この間…猫人から材料を取り寄せて、どうにか一部分だけ作れるようになった。

生前の世界では、子どもから大人まで幅広い層で愛されていたお菓子…【カスタードプリン】

本当はカラメルソースもかけたかったが、今日は時間がないので、カスタード部分だけで我慢してもらおう。

木製のお盆に、ミルクティーとカスタードプリン(試作品)を乗せて二階へ向かおうとした。


「ちょっとソレ、あの娘に食べさせるつもり?」

「そうだけど?」

「なんで新作を、身元が分からない侵入者に食べさせるのよ…」


メラは、試作品をラザラスに食べさせる事が不満のようだ。


「試作品だからだよ。ヘタに顔見知りに食べさせて調子が悪くなったら…まずいだろ?」


いくら頑丈な肉体の戦士であろうと食べすぎたり、食あたりになったら戦の本番で支障をきたしてしまう。

それに、親しい人には未完成品よりも完成した物を食べてもらいたい。


「そのための被験者が必要だから、彼女にね」

「随分と贅沢な事させるじゃねえか」

「エル、そんな顔してもやらないからな」


エルが物申したい表情で言うが、そうされても食べさせる気は更々ない。

クッキーで十分だろう。

じぃーと訴える眼差しを向けるエルと、頬を膨らませるメラをスルーして、俺は二階へ急いだ。




【事情聴取の前に、準備をしよう】




「もぅ…ヴァイスは甘いのよ」

「どした?」

「さっきから侵入者への対処を観察してたけど、ところどころ甘すぎるの! モンスピートもそう思わない?」


デリエリの質問に、メラスキュラは不満を晴らすように声を上げた。

ミルクティーを飲んで和んでいたモンスピートは、メラスキュラから突然話を振られてもさして動揺せず、ふむ…と髭を撫でながら相槌を打つ。


「そうだねぇ…相手側の情報を調べるのは基本だけど。些か手段が優しすぎるかな」

「アイツは、昔から強引な手法は好まねえからな」


エスタロッサはクッキーをひょいっと指先で掴むと、裏表とひっくり返す。


「…なら、ちょっと様子を見にいこうか」

「途中参加するのか?」

「一応、ヴァイスの勤務状況を視察するのが任務だからね…」


…と言いつつも、あまり気乗りしない顔でモンスピートは立ち上がる。


「私も行こうか?」

「デリエリは、もう少しゆっくりしてなよ。交代する時に言うから」


相方のデリエリの頭をポンポンッと優しく撫でると、モンスピートは二階へ続く階段に足をかけた。





【つづく】

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