【6】記念小説集



ふーちゃんは、黒い仔猫と歩いています。

黒い仔猫は「マコ」という名前です。

さっき、本人が教えてくれました。

ふーちゃんは、動物や植物と会話ができる能力があるのです。


「ふぅー…」


たくさん歩いたので疲れてしまいました。

ふーちゃんはぽふっと道の脇に座ります。

マコも、ふーちゃんの隣でにゃぁ~と眠たそうに欠伸をして丸まります。


「よちよち…」


丸まったマコの背中を、ふーちゃんは小さな手で触ります。

フワフワした毛の触り心地がとってもいいのです。

マコと戯れている最中、ふーちゃんは前方から気配を感じ取りました。


「…?」

「にゃぁ~…」


マコも眠たげに鳴き声をあげつつも、起き上がります。

ふーちゃんとマコの前に、背の高い男の人がいました。

髪はお月様のような銀色。

上から下までまっ黒な服装。

なんか目付きがこわいおじさんです。


「…にゃあー」


あれ? マコがおじさんを細目で見ています。

どうやら、マコはおじさんが苦手みたいです。


「…だりぇ?」


ふーちゃんは怖い人や悪い人を判断する能力があります。

大抵、そういう人は物凄く黒いモヤモヤが全身から漂っているのです。

…目の前に立っているおじさんはどうでしょう?


「…ふぅ!?」


なんという事でしょう…!?

おじさんの周りには濃いモヤモヤが漂っています。

でも、なんでしょう…?

普通なら、身体がびくびくしてすぐに逃げたくなるのに、この人はそんな気持ちになりません。

うりさん(100年以上生きてる、ふーちゃんと因縁深い吸血鬼)と初めて会った時なんて、彼のモヤモヤは見ているだけで、胸がむかーとする位、とても嫌な感じがしたのに…。


このおじさんはちょっと違います。

黒い怖いもやもやの中に、優しい白いミルクのようなあたたかい光がちょっとずつまざっているのです。

つまり、ほんのちょっといい人なのかもしれないのです。

ふーちゃんの頭から、はてなマークがいっぱい浮かんできました。

こういうタイプの人は初めてだから、どうしたらいいのか分かりません。


「にゃあー!!」


すると、黒いおじさんがマコを抱き上げました。

突然の行動に、マコは嫌がっているみたい。

どうしよう…と迷うふーちゃんの頭に、そのおじさんは掌をのせました。



「…来い」



*** ***** ***



「あっちの方向の道端を歩いてたよ」

「ありがとうございます!」


揚羽と花宮は地道に聞き込みをしながら、愛猫と…白い猫のベビー服の子の行方を探していた。


「近くにいるはずなのに、見つからないって…もどかしいッ!」

「焦るな…ほら、これ飲んで落ち着け」


あーもぅ!と頭を抱える揚羽に、花宮はそこの自動販売機で買ったオレンジジュースを渡した。

ありがと…と揚羽は小さく呟いてそれを受け取ると、封をあけてちびちび飲んでいく。


「まーこー…どこにいるのぉー」

「さぁてな。もうちょいしたらひょこっと顔出すんじゃねえか?」

「…真、適当すぎ」

「お前はこだわりすぎだろ」


半目でブーイングする揚羽に対し、花宮ははいはいと慣れた感じで言葉を返す。


「…それにして、マコと一緒にいる子って大丈夫なのかな? 迷子かも…」

「アイツだけじゃなくて、知らねえ家の子どもまで心配か」

「当たり前でしょ! だって…その子のご両親、探してるはずよ、きっと!」


揚羽はムキになって言い返す。


「…その子も寂しかったから、マコといっしょにお母さんやお父さんを探してるかもしれないでしょう」

「………揚羽」


揚羽が神妙な面持ちで言った言葉に、花宮は苦い気持ちが胸を締め付ける。


…彼女が複雑な家庭環境だった事。

…過去、誘拐されて母親を殺された事。

…実の父親を探し求めている事。

…彼女を取り巻く環境の裏側で、陰謀が渦巻いている事。


花宮は、それらに深入りできず…だからといって目を逸らす事ができない状況に陥っている。


(情けねえな…)


力を入れすぎたせいか、持っていた缶ジュースが微妙に凹んでしまう。

残っていたジュースを一気に飲み干すと、花宮はこう告げた。


「…いくぞ」

「えっ?」

「さっさとアイツと迷子を見つけて、用事を片付けるぞ」


ほら…と立ち上がって揚羽に手を差し伸べる花宮。

揚羽は「うん…!」と笑って小さく頷くと、彼の手を取り、調査を再開する事にした。




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