【6】記念小説集



「もしもし、虹村ですか? お聞きしたい事がございます」


それから数時間、DIOも参加する形で、テレンスとアイスは調査を再開した。

調査内容は、勿論『トマト・アラモード』という料理についてだ。

DIOは屋敷にある料理に関する文献を片っ端から読みだした。

おかげで、広い部屋の半分が本で埋め尽くされてしまっている。

アイスは、屋敷に帰宅した者達に徹底的にじんも…いや尋ね廻っている。

さっきは、オインゴ、ボインゴ兄弟に聞いていたが…途中で胸倉を掴まれた兄と、ビビッて泣き出す弟の姿が目についた。

頼むから、厄介事を増やさないでもらいたいものだ。


かくいうテレンスは…電話で部下や知人など伝手を頼り、対象の料理名がないか調べている最中だ。

だが、10件くらい連絡を取っても、そんな料理は知らないという回答ばかり。

ハァ…と溜息を漏らした直後、ふと日本にいる部下の一人、虹村の事を思い出した。

以前、虹村が似たような名前のお菓子の話題を口にしていたような…?


思い立ったら吉日。

テレンスはすぐさま虹村へ連絡を取った。


『はぁ…【プリン・アラモード】というお菓子は知っていますが、トマト…は存じ上げません』

「…なるほど、『アラモード』違いでしたか」


受話器越しの虹村の「申し訳ございません」という謝罪が耳に残る。

どうすればいいのやら…と通話を切ったテレンスは額を手で抑えながら思案する。



「WRYYYYYYY!! テレンス、この料理本は古すぎる、最新のものをすぐに発注しろ!!」



DIOはとうとう料理に関する書籍すべてを完読してしまった…その結果は言わずもがな。

それ、三日前に取り寄せた物なんですけど…とテレンスは言い返したいが、うがーと荒れる主には逆効果だろうと無言で頷いた。

下の階から、盛大な音が響き、ユラユラと床が数秒揺れた。


(ああ…アイスが新しく雇った誰かと衝突でもしたのでしょうか…まったく片づける方の身にもなってもらいたい)


すぐにでも状況を見に行きたいが、ご機嫌斜めな主を置いておく方が危ない。

身に着けている腕時計をちらりと一瞥すると、そろそろ夕刻の時間帯だ。

餌となる者を適当に選んでもらい、腹を満たしてしまえばちょっとはマシになるか…。


「DIO様、そろそろ夕食のおじか…」


―――コン、コンッ


テレンスが言いかけたその時、扉をノックする音が被った。

「失礼します」と断りを入れて入室してきたのは…同じ側近のマライヤだった。


「DIO様、只今戻りました……テレンス、これどういう事?」


主が床に積み重なった本を再度熟読している姿に鬼気迫るものを感じ取ったのか、マライヤは訝しげに目を細め、テレンスに意見を求めた。


「…今のDIO様に話しかけない方がいいですよ。慣れないジャンルを文字一つ残らず、隅から隅まで制覇なさるつもりです」

「料理本を? DIO様が…?」


マライヤは、信じられないという感情を顔に露わにする。

彼女の言いたい事は分かる…けれども、テレンスは最早説明する気分にすらなれない。


「DIO様は…何か食べたいモノでもあるの?」

「だいたい合ってますね…ですが、その料理自体特殊なものらしくて、書庫にある料理の書籍には一切載っていないんです」

「へぇ、珍しい料理って事…メニューの名前は?」

「『トマト・アラモード』という名称です。トマトを使うのは漠然と分かるのですがね…」


一体、どんなトマト料理なのやら…とテレンスは腕を組んで首を捻る。

すると、マライヤがあらそれ…と目を瞬きさせて驚きの発言をした。


「あたし、知ってるわよ。その料理」

「えっ…?」

「マライヤ、それは真か!?」


テレンスが訊きだす前に、DIOがくわッと激しい形相で問い返した。

いつにない主の気迫に少し押されつつも、マライヤは「はい」と断言した。


「正確には、その料理をつくれる人物に心当たりがございます」

「なんと…その料理人をすぐに連れてこい!」

「落ち着いてください、DIO様。マライヤ…すぐにとは言わずとも、その人物とはコンタクトは取れますか?」


興奮気味のDIOを宥めながら、テレンスはマライヤに依頼する。

マライヤに、そういう職種に携わる知人にいるのは意外だが、これを頼らない訳にはいかない。


「ええ、もちろん」


マライヤはクスッと笑って二つ返事で了承してくれた。


「…というか、もう屋敷内にいるわ」

「はっ…?」

「おおっ、なら話が早い! ぜひお手並み拝見させてもらおう」


テレンスが一瞬惚けた声を漏らし、問い直す前に、DIOが事を進めてしまう。

主の命令に、マライヤは口元を緩めて「仰せのままに」と恭しく頭を下げた。




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