【6】記念小説集
彼の名前は、テレンス・T・ダービー。
DIOに仕える部下であり、彼の身の回りの世話もしている執事である。
ゲームで負かした相手の魂をお手製の人形に封じ込めて、飾ったり着飾ったりして楽しむかなりアレな趣味を持つが、それ以外(表面的に)はまともな部類である。
午前12時30分…テレンスは休憩していた。
使用人の部屋で、優雅に紅茶を飲みながら焼き立てのクッキーは口にする。
「いい香りだ…」
この紅茶の茶葉は、DIOの親しい友人から頂いたもの。
コーヒーは飲めるが、どちらかと言えば紅茶派なテレンスにとってはとても嬉しい代物だ。
「食事を作りましたし…暫し寛げますね」
30分前に、DIOと部下数名の食事も作り終えており、夕食までは特に予定もなく時間が空いていた。
時計の時刻と脳内にインプットされた本日のスケジュールを照らし合わせながら、午前中の疲れを癒すテレンス。
彼以外にもDIOに仕える部下は大勢いる。
DIOの思想とカリスマ性に魅了されたり、金で雇われた裏の筋の者だったり…。
比率的には後者が多く、大半は屋敷に普段からいる訳ではない。
テレンス個人は多忙ゆえに、その方がとても望ましいと感じているため、特に不満はない。
だが、そんな彼にも悩みはある。
「テレンス、テレンス!」
(この声はアイスですか…)
同僚の焦りと混乱が混じった声音が耳に伝わるや、テレンスはハァ…と溜息を漏らした。
(…昨日はDIO様。今日はアイス…ああ、私の貴重な休み時間…)
テレンスの悩み。
それは…主と身近にいる同僚から悩み相談を持ち掛けられる事だった。
*** ***** ***
「…で、今度は何があったんですか?」
面倒くさそうな表情を隠す事無く、テレンスは同僚に尋ねた。
その同僚…ヴァニラ・アイスは深刻そうな面持ちで顔を俯けたまま椅子に座っている。
ウェーブのかかった紫色の長髪、紫色のレオタードみたいな服装だが、たくましい身体つきのれっきとした男性である。
DIOに絶対的な忠誠を誓っているこの男性は、DIOが生き血を啜うために選んだ食材…女性の亡骸を処理する役割を率先して行っている。
「…今日、DIO様が私に相談を持ち掛けてきた」
「ほう…貴方に?」
差支えなければ教えてもらえますか?
テレンスは、空いている椅子に座りなおし、腕を組んでそう言った。
「内容は…フィン様についてだ」
DIOにはたくさんの部下や崇拝者はいるが、対等な友人はごく少数しかいない。
テレンスが知っている人物は二名。
一人は、聖職者見習いの青年、エンリコ・プッチ。
そして、もう一人が…アイスが話題にした、エクレシアのフィン・スィエル・クレシミエントである。
フィンは、不思議な少女…いや10代後半の女性だ。
この欲と血の匂いで蔓延する悪の巣窟とは、不釣り合いなくらい清浄なオーラの持ち主である。
【エクレシア】という特別な種族であり、不老という点では主と共通点があるだけ。
だが、エンヤ婆の占いで、味方となれば絶対的な強運を授け、敵になれば主や自分達にとんでもない厄災となり得ると指摘された。
もう一人、同様の結果が出た幼いエクレシアがいるが、その子は今の所問題はない。
最初は、DIOの顔を見るだけで不機嫌になるくらい、両者の間はあまり良好ではなかったが、今は普通に話せる程度になれたからだ。
しかし、フィンの場合は違う。
彼女は“見定める”側だ。
DIOが自分にとって、契約に値する者か否かを見極め、ふさわしくなければ敵になると暗にほのめかしたほどだ。
正直、テレンスにとってフィンはマイナスイオン的な存在でもあるため、こちら側にいてほしい。
何故なら、美しくグラマラスな女やスタンド使い(一部、個性的な女と婆さん)はいるが、可愛い癒し系タイプは彼女と幼いエクレシアしかいないのだから!
「……それで、DIO様は何と?」
「日頃から世話になっているフィン様にサプライズをしたいらしい。だが…フィン様は餌の女共が好むようなモノは全く欲しがらない御方だ。
DIO様は…『彼女の好物でも解ればいいんだが…』と口にした。DIO様はフィン様の笑った顔が見たいとおっしゃった…それなのに!
ああ…私はなんて無力だ。DIO様のお役に立てぬなんて…ッ」
膝をついて、うぅ…と血の涙(実際は透明だが)を流すアイス。
「それ、貴方が分からなくても無理ありませんよ。そもそも、フィン様の好きな食べ物なんて、誰も知りませんから」
テレンスは冷静にツッコむ。
フィンは時折、この屋敷に訪れるものの、DIOに自らの素性はあまり話さない。
そういう謎めいたところを解き明かしたいという好奇心が、DIOの想いを助長させているのだろう。
「お前でも分からないのか?」
「詳しい事は生憎と…」
テレンスが肩を竦めて答えると、アイスはますます項垂れる。
「ああ…DIO様に顔向けできん」
「落ち込む暇があるなら、別の誰かに訊けばいいじゃあないですか…」
その言葉に、アイスはピタッと涙が止まった。
「そうだ…お前の言う通りだ。女々しく泣いている暇があるなら、他の者に訊く努力をしなくてはならん!」
「そうですね(…でも、アイス一人だけだと嫌な予感がしてなりません)」
結局、アイスの情報収集を手伝う羽目になった。
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