【6】記念小説集
―――《AM 9:30》
仕事を本格的に開始。
今日は外回りはないから、デスクワークになる。
「外回り」というのは、顧客からの依頼のこと。
ウィンクルム社は、クランスピア社に次いで人気の企業みたいだから、仕事の依頼は結構多い。
職場内での仕事の方が少ないかも…。
「シズク君。この書類をコピーしてもらえるかい?」
「はい」
この人はルクソードさん。
ウィンクルム社の社長代理。
短く整えた金髪と顎の髭が似合う渋めの30代の男性です。
ルクソードさんは、ワケあって社長を名乗れない立場のリエさんに代わって、表舞台で活躍する役割を担っている。
リエさん、外見年齢は私と同じぐらいに見えるから、メリットもあるけれど、デメリットの方が大きいらしい。
だから、名前や顔、プライベートは一切公開していない。
知っているのは、一部の大事な顧客やリーゼ・マクシアとエレンピオス政府の上層部くらいかな…。
「リーゼ・マクシア産の【ムーンライト】が、エレンピオスで輸入される事になった…ほぅ、あの名酒がね。いくらで取引されるのやら…」
ルクソードさんは、興味深そうに今日の新聞の三ページ目あたりの記事を読んでいる。
新聞と言えば、今日の番組欄に好きなドラマの再放送があったっけ…午後三時から。
この事務所に来てから見始めたけど、そのドラマはなかなか面白くてはまってしまった。
この間、最新のシーズン12が終わって、次回作は来年の冬頃に始まる予定だ。
…その頃まで、私はこの事務所にいるのかな。
「しーずーくー」
コピーを終えて、他の事務作業をしているとエルがひょこっと顔を出した。
「何かてつだおうか?」
「特にないよ」
「えぇ~」
エルも何かおしごとしたーいとねだる。
そう言われても…私は非正規の従業員であって社長じゃないからムリ。
ルクソードさんの手伝いをしなよ、と勧める。
「…うん、わかった」とエルはしょうがないな~という感じの顔で、ルクソードさんの方へ行った。
あ、言うの忘れてたけど…ルドガーとシンさんは事務所の庭園で作業してます。
草むしりと庭に落ちてる葉っぱ掃除。
普段は、リエさんがしている日課だけど、今日は二人が行っています。
『よし…【アサルトダンス】!』
すると、ルドガーは戦闘で双剣を扱うように、箒を二本持って剣術で一気にたくさんの葉を集め始めるのが、窓から見えた。
『なら俺もいくぞ…【フォラーズ】!』
器用な事するなぁーと思っていたら、今度はシンさんが箒を使って風を起こした。
この時…シンさんが雷以外にも風の属性の技が使える事が判明しました。
『シン、それ以上風を強くしたら…!』
『げっ…』
でも調子に乗りすぎて、風が大規模になってしまって、ルドガーとシンさんが大慌て。
…あーあー…折角集めた葉っぱが宙へひらひら。
初めからやり直す羽目になっちゃった。
『只今戻りました…あら?』
『あっ…』『リエさん…』
タイミングよく、リエさんが買い物から帰ってきました。
…二人とも気まずそう。
でも、リエさんは舞うように落ちていく木の葉を眺めながら不快になるどころか、口元を緩めた。
『ふふ、木の葉がダンスしているみたい…風情がありますね』
ふわりと蕾から花が咲いたような微笑み。
リエさんの笑った顔……私は好き。
心が、ふんわりと春風を受けたように穏やかな気持ちよさを感じるから。
多分、ルドガーとシンさんも同じ気持ちだと思う。
リエさんを見ている二人の顔がその証拠。
ルドガーは、彼女のオーラに癒されたのか、はにゃーんとホワホワした気持ちを素直に出してる。
シンさんは…あ、また既視感を覚えてるような目。
これはあくまで私の勘だけど…シンさんは、リエさんを通して別の人物を見ている。
ルドガーからちらっと聞いたけど、例のテロが起きた列車の中で、リーシェさんと初めて会った時もそんな感じだったみたい。
…もしかしたら、【あの人】と知り合いなのかも。
【あの人】は、リエさんのもう一人の娘さんで、リーシェさんの本体であって〝お姉さん”
二人の関係を全く知らない人間だったら、髪の毛の色とか長さとか目つきとか細かい個所を見ないと、見間違えてしまう。
それだけ、リーシェさんと【あの人】はそっくり。
でも、この事…シンさんにはまだ言わないでおこう。
それはなんで?
だって言ったら、シンさんは蜘蛛と徹底的に対決するのが目に見えてるから。
元々、あっちは蜘蛛の事を快く思ってないし、あれこれ余計な情報を喋ったら、リーシェさんが困ると思う。
あっちが何かを追及してくるまでは…私は静観する。
それがベターな選択なんです…今は。
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