【1】黒き騎士との安らかな一時
リエは【凛々の明星】には当初は所属していなかったが…ユーリ達と旅を共にしてきた大事な仲間だ。
ヴァンスとの関係が発覚した後も、仲間とその事実を受け入れ、彼女を正式にギルドの一員として迎え入れたのだ。
彼女からの質問に、ユーリは少し間をおいてから言った。
「俺は嘘をつけない性分だから、ありのままの意見を言わせてもらう…俺はあいつの事は好きじゃない」
「その理由は?」
「あいつの思想に共感できないって言うのが一番の理由だな。あいつの辿ってきた人生が如何に過酷だったとしても…それは理由になんねーからだ」
ヴァンスの思想…。
ラゴウやキュモールのような腐った救いようのない連中や目の前の現実に知ろうとせず、見て見ぬふりをする者達が蔓延り、世界が
滅びの道を突き進むようならば、その世界自体が苦しまぬように、自らの手で浄化する。
極端だが、ある意味ひとつの救済手段ともいえる考え方だ。
「けど…あいつを完全に忌み嫌う資格は俺にはない」
ヴァンスは、それが絶対的な【善】とは思っていない…寧ろ己自身が世界を壊す《究極の極悪人》だと嘲笑っていた。
だが…だからこそ、ヴァンスはすべてを敵に回す覚悟で、世界を存続か滅亡か天秤に掛ける。
それが、彼が…選択した道であり、《破壊の神》として選び取ってしまった代償であるからだ。
―――ヴァンスと俺は似ている…だから、俺はあいつに二つの感情を抱くのかもしれねーな。
それは『同族嫌悪』と『親近感』…。
…矛盾する感情が、複雑に溶け込むようにユーリのヴァンスに対する価値観を形成しているのだ。
その返答に対して、リエは満足そうに頷く。
「正直に言ってくれてありがとう」
「…不愉快だとは思わないのか? 俺は意見を曲げるつもりはねーけど」
「人は誰でも苦手なものはあるでしょう? 自分の好きな人やものを仲間に無理強いさせる程、私は欲張りにはなれないから」
自分の夫への否定的な意見を、リエは嫌な顔一つせずに受け入れる。
彼女はただの夢見がちな理想主義者ではない。現実と向き合い、それを受け入れる心の強さを持っている。
「でも、本音を言うと…自分の好きな人の否定的な意見を聞くと心は痛みますね」
「…ま、その気持ちは万人共通だな」
「フフ、そうですね」
不思議な感覚だ…。
さっきまで、ごちゃごちゃと頭を悩ませていた事柄が「どうにかなるかもしれない」と心に余裕をもたらす。
これが、リエの力なのだろうか…。
いや、もしかしたら生まれ持った資質なのかもしれない。
…他者に内面を見せないヴァンスも、おそらく彼女のそれに解され、頑なな心を開いたのではないか、と思う。
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