【1】黒き騎士との安らかな一時
「黒髪の騎士さん…この安らかなひとときをお昼寝で過ごすつもりですか?」
穏やかな優しい声音が、ユーリの耳元に聴こえてくる。
閉じていた両目を薄らと開けると、その視界に映し出される一人の女性…。
「リエか…あんた、カロル達と一緒じゃなかったのか?」
「各自で自由行動してもいい事になったから、私もゆっくりしようと思って此処に来ただけの事ですよ」
そう言いながら、リエは横になっているユーリの隣に座り込む。
「平和ですね…この島は」
「―――ああ、本当に…今まさに世界の危機が訪れてるとは思えねーよな」
ユーリの視線は、空全体を妖しく漂う青紫色のスライムのような塊に向けられる。
―――かつて、古代ゲライオス文明の時代に封印された《星喰み》
長きに渡り、それを封じてきたザウデ不落宮の装置が破壊されてしまい、古代の厄災は現世に復活してしまった。
その世界の危機を救うため、ユーリ達は事を進めている最中なのだが…やはり、懐は彼らの都合に合わせる事は出来ないのだ。
それゆえに、ギルドの仕事をしながら、日々の食費やアイテム代を稼いでいる。
「なぁ、リエ…あんた、あれ以来、あいつと会っていないのか?」
「あいつ…ああ、ヴァンスの事ですか」
ユーリが尋ねる質問事項に…なぜ彼のある種の知人(?)の名前が出てくるのか。
―――答えは至って単純。
ユーリが『厄介でムカつく男 №1』だと認めるヴァンスの妻が…信じられない事に彼女だからだ。
「正直言うと…いまだにあんたがあの男のかみさんだなんて信じらんねーんだけど」
「クスッ、よく他の人からもそう言われるわ」
リエは温和な表情で笑みを零しながら、言葉を返す。
「質問の回答ですが…あれ以来、彼とは接触していませんし、連絡もありません」
「…つくづく、何考えてんのか分かんねー野郎だ」
ユーリがボソリと正直な感想を漏らす。
なぜ、ヴァンスと自分はあの夢路で巡り合ってしまったのか。
当の張本人は、「お前とは相性が合う」という他人が聞けば、誤解を招きそうな発言を面白げに言っていた。
ユーリからしてみれば、あんな我の強い人物と相性の善し悪しで腐れ縁ができた事自体があまり喜べない心境だ。
「ユーリ君…あなたはヴァンスの事が嫌いかしら?」
横に居るリエが不意に問いかけてきた。
ユーリは、身体の上半身を起こしながら、少し眠気がきていたのか、両目を瞬きする。
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