【1】黒き騎士との安らかな一時


ナム孤島の学校の中をブラブラと徘徊するユーリ。

校内の教室も、飲食店や展示会などを取り扱っているようで、客人を呼び込むために店員は必死だ。

ふと、4階の廊下を歩いていると、窓から外の風景が目にとまる。近づいて視界に移る光景を眺める。


パティが、巡回中のフレンをグイグイと引き連れてきて、屋台でおでんを購入して共に食べている…。

別方向では、レイブンが浴衣姿の女性の観光客にナンパしていた。


「けっこー、楽しんでんな。あいつら…」


ユーリは薄ら笑みを浮かべ、閉まっていたガラス戸から手を離すと、歩を進めていった。


それから、行き着いた先は施設の屋上だった。

心地よい風が吹き、ユーリの黒髪を靡かせる。大きく背伸びをすると、そのまま白いコンクリートの床に寝転がる。


「…いい気持ちだ」


こんなにゆっくりと横になるのは何ヶ月振りだろう。

数年前までは、自分が外の世界に出て、旅をするなんて考えてもいなかっただろう。

あの頃は、騎士団に絶望し、独りで下町を守るために、ただ限られた世界の片隅で必死でもがいていた…。


―――思えば…最初に俺にきっかけを与えたのは『あいつ』だったな。


ひょんな事から、夢路で出会った男…。

その男はユーリにとって、この世の中で最も厄介な、ザギ以上に関わりたくない存在―――ヴァンス・F・クローチェ…。

あいつとの出会いから、ユーリの人生が一変したといっても過言ではない。


時折、夢路で遭遇してはちょっかいを出してくるヴァンスに、ユーリは面倒くさい奴と関わったと後悔した。

だが、彼はユーリにとって、完全な【敵】という訳ではなかった。


かつて、アレクセイとの決戦時に、彼の凶刃により、危うくその身を絶たれる寸前―――所謂、絶体絶命の局面に陥った事がある。

その時…ヴァンスが、間接的な形でユーリに叱咤の言葉を投げかけた。


『お前はこんな所でへこたれる腰ぬけか? そこに居る腐った性根の騎士団長風情を心(しん)から叩きのめす事さえできんのか』


ストレートすぎだろ…あの言葉はけっこうムカついた。

けれど、俺はその嫌味のおかげでアレクセイの攻撃を受け止め、逆に奴に致命傷を与える事が出来たのだ。


正直…あいつとの夢路での交流は嫌ではなかった。

今思えば、あいつはあいつなりに、俺に進むべき道筋を示そうとしていたんじゃないのか。

真相は分からない…俺には、あいつの考えてる事なんて想像できねーし、したくもないからな。



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