第3章【1】束の間の普通の日常と、学校を欠席したライバル少女


「テストを返します。名前呼ばれたら取りに来てください」



向日葵はドキドキしている。

連休を終えてから二週間後に、実力テストがあった。

現国、古文、数学、化学・科学、英語、日本史、世界史…

合わせて七教科のテストが三日に分けて行われた。


それぞれの科目のテストの答案用紙が返却されて、結果が分かる日を迎えた。



「木之本さん」

「はい!」



名前を呼ばれて、教師が待つ教壇へ向かう。

そして答案用紙を手渡されて、そのまま席へ戻った。

恐る恐るその中身を確認すると…向日葵は大きく目を見開いた。



(こっ…これって…!)



向日葵は暫く返ってきたばかりの化学・科学の答案用紙に目が釘付けになっていた。



それから昼休みの時間となった。

屋上で弁当を食べている最中、同席していた切原が興奮したように言った。



「向日葵、今日返ってきた答案…見てくれ!」



ジャーンと言いながら、切原が率先して自分の答案用紙を公開した。



「うわぁ…すごい!」

「だろ、だろ!」



切原が、全てのテストで好調の点数をとった。

特に、化学・科学は最高得点である。

向日葵だけでなく、周りにいた他のテニス部のメンバーも驚きを露わにする。



「ほぉー…やるのぅ」

「まさか、あの追試の常連だった赤也が…全教科をパスするなんて…!」


「よかったな、赤也」

「ギリギリの教科もあるが…お前にしてはよくやった」


「努力の成果が実ったんですよ。おめでとうございます」

「ふむ、よく頑張った」


「偉いね。赤也……

………勉強会ができないのはちょっと残念だけど」



(あっ…先輩のあの様子、する気満々だったんだ)

(ひっ…!? やっぱ、計画してたのか…危なかったァ~)



幸村が少々寂しそうに呟いた後半の言葉に、向日葵は彼の心の内を察した。

切原本人もそれに気付き、背筋に冷たい物が走り、「テスト対策しておいてよかった…」という

思いがさらに強まった。



「それにしても、どんな勉強したんだよぃ?」

「部活の練習を欠かさなかったし、家庭教師を呼ぶようになったのか?」



丸井とジャッカルが興味深そうに質問すると…



「実は…向日葵が最近知り合ったエクレシアの普賢さんのおかげなんですよ」



切原はふふふっと得意げに笑いながら、種明かしをした。

切原、仁王を除いた他のメンバー達の視線が向日葵に集中する。



「えっと、話が長くなるんですけれど…」



*** ***** ***



普賢に能力を向上させる指南役をお願いした事により、普賢は定期的に夢の中で会うようになった。

始まって三週間目になるが、まだ座学の段階。

本格的に実技(夢渡りの練習など)に入るのはまだ先となる。


それから、現実の世界でも時間がある時に木之本家を訪れて、互いに近況報告をしている。

その際に、普賢が勉強を教えてくれるようになった。

そのおかげで、今までは理解するのが難しかった理系の教科が分かりやすくなった。


連休中に宿題の助言をもらった経緯から、切原も普賢の教え方が上手だと実感していたため、

テスト勉強の対策をしたいと自らお願いしたのだ。

その甲斐あって、【追試】という名の恒例行事を回避できた。



「へぇ~…そいつは凄いな」

「そうだね、折角だから丸井も頼んでみたらどうだい?」


「ぎくっ!」

「後で、テストの結果…教えてもらうよ」



幸村の有無を言わさない笑顔に、丸井はがくっと項垂れる。

その様子から、彼の実力テストの結果は芳しくなかったのだろう。

ほら落ち込むなよ、付き合ってやるから…とジャッカルが、背後に影が出ている丸井を

励ましている傍ら、柳生がさりげなく尋ねてきた。



「そのエクレシアの方の事を、ご家族にはどう説明されたんですか?」



そんなに頻回でないとはいえ、家を訪れているのだから、

向日葵以外の家族も普賢の事を見かける可能性が高い。

見ず知らずの青年が来る事を不審がらないのだろうか?



「桜には本当の事を言いました。

兄と父には雅治先輩のご親戚で、親切心から勉強を見てもらっている…と話しました」


「おん。俺が考えた設定なり」



仁王がきっぱりと言った事に、えぇー…と周りに何とも言えない空気が流れる。



「うむ、髪色は近いが…」

「そういうベターな設定で、二人は納得したのか?」



腕を組んだ真田が微妙な顔で感想を言い、柳が「怪しすぎないか?」と

率直にツッコんできた。



「正直、私だけだと…兄辺りに疑われていましたね。

でも、普賢さんが父と兄と会ってくれまして…」



まさか、本人が直接二人に説明(という名の演技を)してくれるとは思わなかった。

普賢の柔らかい物腰のおかげで、父は彼の事を信用したようで、兄も害はなさそうだと思ったのか

…今のところ詮索されていない。



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