【閑話 3】彼等の情報交換と、貸本屋の謎
「【ウィズ】っていうその生き物は、俺達も見たよ」
「ぶっちゃけると…ウサギだと思ったか?」
ジャッカルがそれとなく尋ねると、首を横に振る者が多かった。
「率直に言うと、ウサギには見えなかったよ」
「店長の説明を聞いて、珍しい品種かと思っていた」
「念の為に、帰宅してから調べたが…ああいう品種は事典などには掲載されていなかった」
「私も…あれはウサギとは違う別の生き物じゃないかと感じました」
「もしかして、まだ発見されてない珍しいウサギだったりして…」
やはり、ウィズの事を『ウサギ』だという説明に対して、違和感を覚えている者もいたようだ。
同調してくれる人がいた事に、ジャッカルは安堵した。
「それと…一部の利用客が異なる姿に見えたのも気になるね」
「俺が目にしたのは、今のところ『グリモワール』っていう女の人だけだ」
【双月文庫】の食堂で食事を取っていた時も、気付かれないように観察していた。
ジャッカルの目には、グリモワールの二つの姿が同時に見えていた。
対して、丸井にはその事を気付かなかったのは…どういう事だろうか?
「ジャッカルって、霊感とかそういうのあった?」
「ねえよ」
「なら、いつの間にか才能が開花したとか?」
「おいおい、それはねぇ……って、言いたいけれど、どうなんだろ…」
いいな~と羨ましそうに言う丸井とは反対に、ジャッカルは渋い顔になる。
特殊な力が目覚めたのでは…と言われても実感は湧かないが、可能性がないとは言い切れないため、
なんとも落ち着かない気分になる。
もし、ほんの些細なものであれ、そんな能力を得ていても…
扱い方や制御の仕方やらを独学でやれる自信がない。
さらに、何か反動がくるのでは…と薄ら寒気を感じてしまう。
「ならば、暁に相談してみたらどうだ?」
「彼なら、症状について何か分かるかもしれませんよ」
「…そうだな。分かんないままいるよりかはマシだよな。
よし、明日聞いてみる!」
柳と柳生の提案に、ジャッカルは二つ返事した。
長い年月を生きている暁なら、自らの症状について明確に診断してくれるかもしれない。
身近に相談できる相手がいる事が、すごく有難いと思えた瞬間だった。
「それにしても…あの貸本屋は、秘密がいっぱいありそうだね」
幸村は顎に手を添えて、訝し気に目を細める。
彼の言う通り、貸本屋【双気文庫】には謎が多い。
「あくまで、優先するのはクロウカードに関わる事だけど、貸本屋の件は時間がある時に調べてみようか」
「ヴィンセントさんや暁さんにも…それとなく話してみましょう」
これからの事を語りながら、幸村達はテスト勉強を再開した。
【彼等の情報交換と、貸本屋の謎】
夕陽がまだ半分顔を出している時間帯、その日のアルバイトを終えた木之本 桃矢は帰路に就いていた。
「ただいまー」
「お帰りなさい、桃矢君」
リビングルームには、父である藤隆がいた。
大学に勤めている父はこのところ多忙であったが、
ようやく仕事の目途がついて久方ぶりに休みが取れたのだ。
「何してるの?」
「折角の休日だから、部屋の整理をしていたんだ。
そしたら、アルバムを見つけて…懐かしくなってつい見ていたんです」
藤隆はにこやかに言いながら、アルバムの一冊を開いて眺める。
「これ…古いヤツ?」
「そういえば、桃矢君は初めてみるアルバムかもしれないね。
…僕と撫子さんが結婚する前の物だから」
藤隆は優しい顔でそう告げると、桃矢に「どうぞ」とアルバムを見るように勧める。
桃矢は最初の頁の方を開くと、そこには学生服を着た母…撫子の写真があった。
「若いなぁ、母さん」
「ええ、この頃から撫子さんはとても可愛らしい方でしたよ」
それから、掲載されている写真一枚一枚を見ていく桃矢。
時折、藤隆がその当時の出来事を語ってくれ、昔の母の事を頭の中で想像しながら楽しんでいく。
すると、ある一枚の写真に目が留まった。
「…此処って、何かの店?」
写真に写っているのは、レトロな雰囲気のある二階建ての古民家だ。
その家の玄関前で、母はワンピース姿で立っている。
玄関の前に看板が立て掛けられているところを見ると、飲食店だろうか?
「あぁ、そこは撫子さんが通っていた貸本屋さんですよ。
僕も何回か行った事があります」
「へぇー…どこら辺にあるんだ?」
「前はかなり遠い場所にありましたね。
今は、移転して別の所でお店を開いてるとか…」
桃矢の何気ない質問に答えつつ、藤隆は頁を捲った。
「このお店は所有している本の種類が多くて、店長さんもきさくな方だった」
その頁に載せられていた複数の写真に、撫子以外の…貸本屋の利用客と、
前掛けを身に着けた店長らしき若者が写っていた。
「元気にしているといいですね…『ハルさん』」
藤隆は穏やかな表情で、写真に写る店長の名前を口にした。
【つづく】
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