【閑話 2】探索する二人と、不思議な貸本屋


二階へやってくるや、丸井は目を輝かせた。



「うわっ、ジャッカル、あれ! 知ってる漫画がいっぱいある!」



愛読している雑誌に過去に掲載されていたり、現在も連載中の漫画がずらりと棚に収納されている。

丸井は早足でその棚に近づき、どれを読もうかと指で追っていく。



「気持ちは分かるけど、あんまり騒ぐなよ」

「分かってるって!」

「やれやれ…」



はしゃぐ丸井に、ジャッカルは肩を竦める。



「うーん…」



その時、後方から誰かの声が聞こえ、思わず振り向いた。

近くの肘掛のある長椅子に、一人の人物が横になっていた。

年齢が20代前半ぐらいの青年だ。

格好が東洋の衣服っぽく、漫画やアニメの登場人物が着ているようなデザインである。



「…ぬぅ…そりぇは…わしの…すぴーzzz」

「ビックリした。寝てるのか、この人…」



寝言を呟きながら、熟睡する青年。

ジャッカルはじぃーと、寝ているその青年を見つめながら思った。



(疲れてるのか…いや、そもそも長椅子で寝ていいのか?)



いくら眠たいとはいえ、他の利用者が使うかもしれない場所を独占する形で使用している。

このまま放置していいのか否かと悩むが、ムリに起こして難色を示されて問題が発生しても困る。

どうしよう…と悩んでいると、階段を上る音が響いた。



「エステルは何を読むの?」


「久しぶりに、漫画を読もうかと思います。

最近、はまっているストーリーがあるんです。

ソフィはどうです?」



二人の人物が、仲良く談話しながらやってきた。

一人は、菫色の長い髪を左右対称に結わえたツインテールの少女。

もう一人は、桃色のショートヘアーで高校生ぐらいの外国人の女の子だ。



「…タイコーボーさん、こんにちは」



少女…ソフィが、長椅子で眠っている青年に小声で挨拶をした。

青年は【太公望】という名前だと判明した。



「太公望さん、いつも通りですね」

「うん、ぐっすり」

「お休みの邪魔をしたらいけないから、そっとしておきましょう」



女の子…エステルが口元にしぃーと人差し指を添えてそう言うと、ソフィも「そうだね」とコクリと頷く。



(『いつも通り』って…おいおい!

この人、此処で寝るのは日常茶飯事なのかよ…)



二人の会話を聞いていたジャッカルは唖然とした。



「おー、望さん。寝てる、寝てる」

「なぁ、今日はどのくらいで起きるか賭けねえか?」



さらに、次にやってきた不良っぽい高校生二人組の会話で確信した。

長椅子で太公望が眠っているのは、他の利用客からも周知の事実のようで、

彼がそこを使用するのをごく当たり前のように容認しているのだと…。



(うわぁ~。この光景、幸村達も見たのか…いや、見たよな。きっと…)



長椅子で熟睡するコスプレ姿の青年に、テニス部のメンバーがどんな表情をしていたのか。

一人一人、それがリアルに想像できてしまうあたり、ジャッカルは彼等の事を熟知していると言える。



(『けしからん!』って、真田辺りは言ってそうだ)



起こす行動に出たかまでは不明だが、副主将の彼はきっと眉を大いに顰めていたに違いない。



「おーい、ジャッカル! このタイトル!

懐かしいジャンプ漫画、発見!」



漫画本を数冊持った丸井が、歓喜の表情で戻ってきた。



「幼稚園時代にアニメ見て、超面白かったんだ…って、どうした?」

「いや…ちょっとな」



何故か苦笑いを浮かべている級友に、丸井はきょとんと首を傾げる。



「まずい事でも思い出したとか?」

「…あー、うん。そんな感じだな」


「大丈夫か?」

「ああ、大した事じゃねえから」



身近にいる人達の行動パターンを頭の中でシミュレーションしてた事は、敢えて言わないでおいた。



「それにしても…」



丸井がキョロキョロと二階の様子を見渡す。



「他のお客さん、コスプレ率高くねえ?」



その言葉に、ジャッカルも首を縦に振る。

未だに夢の世界にいる太公望は勿論、二階を利用している他の利用客達も…

一部を除いてアニメや漫画のキャラクターの衣装を見に纏っているのだ。



「まさか…! この店って、コスプレ大好きな外国人が密かに通う有名なスポットだったりして!」

「うーん…どうなんだろうな」



きっとそうに違いない!と断言する丸井に、なんか違う気がする…と

ジャッカルは冷や汗を流して首を捻る。



「すみません」



その時、一人の女性が声をかけてきた。

年齢は20代前半で、青い瞳と薄い金髪を後ろで三つ編みにした外国人だ。

丸襟の白いシャツと、上から黒生地のベストを纏い、下も同じく黒のパンツスタイルの制服から

…この店の従業員だと思われる。


服越しからも分かる豊満な双丘と儚さを伴う美しい顔立ちに、丸井は頬を紅潮させる。



「丸井様と桑原様ですか?」

「あっ…はい!」

「そうです」


「私はこの店の従業員でゲルダと言います。

貸出の準備が出来上がりましたので、お知らせに参りました」



流暢な日本語で、ゲルダは店長が貸し出す書籍を持ってきた事を伝えた。

連絡を聞いたジャッカルは、「行くか」とアイコンタクトで促すと、丸井も同意するように小さく頷く。

再び一階の受付へ戻る事にした。



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