【閑話 1】訪問客からの提案と、向日葵の選択
「うまいッス、これ!」
「ホンマやなぁー、このくどくない上品な甘さ…プロ並みや!」
普賢の持ってきたお菓子に、切原とヴィンセントは舌鼓を打つ。
「お口に合ったようで良かった」
「これ、どちらで買ったんですか?」
三種類のどのお菓子の味も絶品だ。
余程、有名な店で購入したのかもしれない…と向日葵が尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「僕が作った物だよ」
「えっ!?」
「マジッスか!」
「そらすごいなぁ。普賢の兄ちゃん、パティシエ目指しとるん?」
驚く向日葵達の様子に、普賢は朗らかに笑う。
「僕個人の趣味。お菓子作りは得意なんだ」
「趣味でこのレベルって…すごすぎる」
切原は、持っている小皿に乗せられたお菓子と普賢を交互に見ながら感動したように感想を呟く。
仁王は向日葵が用意した緑茶を啜ると、口を開いた。
「普賢さん、そろそろ本題に入ったらどうですか?」
「ん、そういや向日葵に用事があったんだっけ?」
「あっ…そうだった」
「…って忘れとったんかい!」
仁王の言葉で、向日葵は普賢が此処に来た理由を思い出した。
ヴィンセントのツッコみに、向日葵はあはは…と後頭部を触りながら苦笑する。
「じゃあ、お言葉に甘えようか」
持っていた湯呑みをお茶受けに置くと、普賢は視線を向日葵に向けた。
「僕は、向日葵ちゃんにお願いがあってきました」
「は…はい!」
真面目な顔で告げる普賢に、自ずと緊張してしまう。
「君の能力…夢渡りに関わる事だけど」
「…なんか、俺がいてもいいのかな?」
何やら只ならぬ雰囲気を察したのか、切原が遠慮がちに訊いてきた。
「今から話す事を内密にしてくれるなら、どうぞ同席してください」
「あの、向日葵が抱えているあれこれを知ってる人が他にもいるんです。
テニス部の…秘密を守れる信用できる人達なんで、話しても構わないッスか?」
あのアクセサリー事件の時のように、アクシデントに遭遇する事を考えると、
他のテニス部のメンバーにも話す必要がある。
切原の言葉に、普賢は「大丈夫?」と向日葵と仁王に視線でコンタクトを取ってきた。
「はい、大丈夫です!」
「俺も保証します。べらべら喋るもんはおらんので…」
「分かりました。話を戻すけれど…
向日葵ちゃんは、クロウカード以外に夢に関わる能力を使用できるようになりました」
「おぉっ、前言ってた予知夢のやつか!」
「知ったのはつい最近だけどね」
目を輝かせる切原に、向日葵は照れてしまう。
「夢渡りをできるけれど、まだ初心者レベルだね」
「そ、そうですね…」
普賢にハッキリと言われた事に、向日葵は冷や汗を流す。
「今のところ、夢で渡った事のあるのは僕の領域だけでしょう?」
「はい、その通りです」
「自分の夢の領域を形成できている?」
「いえ…予知夢を見る時もそうですけれど、いつもバラバラの場所にいます」
「君以外の…夢渡りを使う能力者と鉢合わせした事は?」
「ありません」
首を左右に振る向日葵に、普賢は「なるほど」と納得したように頷く。
「向日葵の能力に…問題があるんですか?」
相次ぐ質問の内容を聴きながら、仁王は不安そうに声をかけた。
「うん、このままだとまずいのは確かだよ」
「ッ!?」
「ま、まずいって…何が?」
普賢が断言した事に、向日葵は息を呑み、切原は「どうして?」と聞き返す。
「ウーゴさんの時にも言ったけれど…夢渡りは使い方によってはとても危ない能力なんだ」
「えっと…『ウーゴ』って誰?」
「後で話すから、おまんはちょいと黙っときんしゃい」
疑問符を浮かべて質問する切原に、仁王が「今は、話に耳を傾けてくれ」と頼む。
「能力者は、向日葵ちゃんやウーゴさんのようにいい人ばかりじゃない。
実際に、悪用する人もいる」
「そういう人に…会った事があるんですか?」
「…何回かね」
普賢は寂しそうに笑って答える。
彼にとって、その出来事はあまり触れられたくない事なのだろう。
…向日葵は胸が痛くなった。
「悲しかったな。直接、この手でお灸をすえないといけない事態になっちゃったから…」
「…そ、そうですか」
普賢がしみじみと続けて言った台詞に、向日葵は固まった。
彼の逆鱗に触れた人物はどうなったのだろうか…薄ら寒気がした。
(なんかデジャブが…誰かさんと似てるのは気の所為じゃないッスよね?)
(余計な事言わん方がええ。『沈黙は金なり』じゃ)
切原と仁王がヒソヒソと小声で話し合う。
この時、向日葵は初めて外野になりたい気持ちになった。
「心配なのはそんな人達と、向日葵ちゃんが遭遇してしまう事。
そうなれば、君は被害を受けてしまう」
夢渡りができる能力者は、大小あれ戦う術を身につけている者も少なくない。
クロウカードがあるとはいえ、向日葵は人を相手に戦った事がない。
「向日葵ちゃんは少しでも能力を成長させないといけない。
だから…僕を指南役にしてくれませんか?」
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