第2章【12】眠り人の目覚めと、潜む脅威の影


『先程の言語は初めて聞いた。…我が知らぬ間にできたものか?』



向日葵達が退室するや、暁はその話題を口にする。



「俺達が扱う特有の言語です。

一般的には知られていない…

基本的にはエクレシアとセクエンツィア以外の人にしか意味が分からないものです」


『なるほど…機密情報を喋るには最適だな』



出ていく直前に、ダンが仲間に何を語ったのか…?

暁は言語は理解していなくても、大体どんな内容なのかは推測できた。



『時間稼ぎでも頼んだか』

「ご想像にお任せしますよ」



動揺を見せる事無く、ダンは穏やかな表情で言葉を返す。

生前が特殊な職種だった事だけあり、なかなかできる男である。

そう分析しながら、暁は立ち上がってダンとベッドで上半身を起こしている普賢を真っ直ぐ見据える。



『今回の騒動について、言いたい事がある』

「どうぞ」


『騒動の発端となった者を特定し、尚且つ穏便に事を終結させられたのは幸いだ。

だが…実際には、まだ解決していない事があろう』



暁は気付いていた。

きっかけは、普賢の領域内で侵入者が入り込んだ際に合図のピアノの鍵盤の音が鳴り響いた時だ。



『あの時、音は二回鳴った。

しかし、二回目はかなり間をおいてから聴こえ、なおかつ耳を澄まさなければ分からない程度の音量だった』



侵入者を感知するだけなら、音量を小さくせずに一定の高さに保つべきだ。

しかし、最初と二回目で音に差が出ていた。



『あの警報音は【侵入者一人に対して、一回しか鳴らない】仕組みなのではないか?』



暁の鋭い指摘に、普賢は瞼を閉じて首を縦に振った。



「その通りです…僕もあの音を聴きました」

『そうなると、あの作戦の際の気配も…感知していたのだろう』



彩り鮮やかな花々の海に潜んでいた…強大な地の属性を司る「何者」か。

その者が、普賢の領域に忍び込んだ意図は不明だ。

しかし、これだけは言える。



『地を司る侵入者は、普賢殿を狙っているのは確かだ。

だが、あの時…【花】のカードの威力に遭遇した事により、向日葵の魔力に目を付けたかもしれん』



侵入者は向日葵の姿を見ていないが、魔力で特定される危険がある。

これから先、何かしらの防衛策を整えなければならない。



「その件で、提案したい事があるんだ」



普賢が真面目な顔つきで話を持ち掛けてきた。



『聞かせてくれ』



暁は即答した。

己の契約者と彼が愛する者を守るために…必要な選択をする事にしたのだ。





【眠り人の目覚めと、潜む脅威の影】





「これはどういう事だ…説明してくれ」



暗黒色の闇が支配する空間で、少年…ゼルドリスは大いに眉を顰めて言った。



「みりゃ分かるだろ、ゼル。…花弁だ」



ふぁーと大きく欠伸をして、彼の兄…エスタロッサがそう答えた。

ゼルドリスの額に青筋が立ち、すかさず叫んだ。



「俺が言いたいのは、『延々と広がる封印の空間内を埋め尽くすほどの花弁が

何故出現したのか』という事だ! 兄者!」



特殊な術で、一時的に外界へ赴いていたゼルドリスは戻って来るや、絶句した。

普段は闇一式に染まっている閉鎖的な場所が、一気に華やかな花弁のカーペットを

広げていたのだから無理もない。



「申し訳ございません」

「…って、原因を作ったのはドロールなのか!?」



意外なメンバーが開口一番で謝ってきた事に、ゼルドリスは逆に驚きの声をあげてしまった。



「本日、探っていた夢の領域内でトラブルに巻き込まれました。

…これらは脱出した際に私の身体に纏っていた物です」


「カーカッカッ! お前さんが帰還するや、大量の花弁も一気に押し寄せてきよったからなぁ…

久々に愉快な気分になれたわ!」



豪快に笑いながら、ガランは愛用のハルバードを振るって花弁を一気に蹴散らしていく。



「まったく、お花見は風流があっていいけれど…花の滝は御免被りたいわ」



闇を纏って宙に浮かぶメラスキュラは文句を零す。

なだれてきた花々に巻き込まれそうになり、大変だったようだ。



「やれやれ…花弁で窒息するなんてシャレにならないよ」



瞼を閉じている相棒を横抱きにして、モンスピートはさくさくと花弁の上を移動していく。

相棒であるデリエリは熟睡しているため、まだこの現状を知らない。

デリエリが寝ている間に、これらを片付けておきたいのか、モンスピートは彼女を適当な場所へ

避難させると得意の獄炎で花弁を滅していく。



「いやぁ、大量ッスねぇー。これだけあれば、三年分のジャムが作れるッスよv」



他のメンバーとは対照的に、グロキシニアはとても上機嫌だ。

元々、妖精族であるゆえに花の蜜を好むため、長年の知己が思いがけずに持ち帰った手土産は

彼にとって嬉しい産物だった。


魔力を駆使して、花弁を袋に詰めていっている。



(…暫くはジャムのオンパレードになるのか)



積み重なっている袋の山を目にしたゼルドリスは深い溜息をついた。



「それにしても…この花々に宿りし…魔力…なかなか良き香りだ…」



未だに残存している花弁を観察していたグレイロードが気付いた。

…花弁に魔力が宿っている事を。



「あらホント。まだ未熟だけれど…新鮮でいいお味ね」



花弁を掌にとって、少量の魔力を味見したメラスキュラがうっとりした顔になる。



「ドロール君、素敵な補給場所を見つけたみたいッスね」



羨ましいッスと言う親友の言葉に、ドロールは掌に乗った花弁を見つめながら「そうですね…」と呟いた。



(やはり…別人のものだ)



だが、ドロールは勘付いていた。

…花弁を召喚した魔力の主が、普賢とは違う事を。

メラスキュラが指摘するように、花々を生み出した張本人はまだ若い魔術師の可能性がある。



(これだけの物を創造するとは…将来的にかなりの実力者になれるやもしれない)



―――どんな人物だろうか?

領域の主である普賢の親しい人物であるのは…間違いない。



(…時をおいて、また調べてみよう)



運が良ければ、会えるかもしれない。

密かに期待を持ちながら、ドロールは花弁の清掃を再開した。





【つづく】

4/4ページ
スキ