第2章【12】眠り人の目覚めと、潜む脅威の影


「すみませんでした」



侵入者の男性は目覚めるや、すぐさま土下座した。



「あれ…?」



向日葵は目が点になる。

犯人が、すんなりと謝ってくれた事に拍子抜けしてしまう。



「…やけに素直じゃのう」

「なんや逆上して『なめとんのか、ああん!?』とかメンチ切るくらいするかと思うとったけど…」


「そ、そんな事しないよ!」



仁王とヴィンセントの言葉に、犯人はブンブンと大きく首を横に振る。

全力否定する彼の態度を見た向日葵は、それが演技には思えなかった。

すると、普賢が腰を屈めて男性と視線を合わせる。



「改めて、はじめまして。犯人さん」

「あっ…は、はじめまして…」


「僕は普賢真人と言います。

もしよければ、名前を教えてくれますか?」



人を和ませる微笑みを浮かべる普賢。

怖がる事無く、逆に怯えさせる事無く…相手と話し合おうとしている。



『敵であろうと、まずは対話をして解決を目指す人なんだ』



ダンの台詞が頭をよぎる。

彼の言っていた通り、普賢はリエと同じく武力よりも対話を重視するタイプのエクレシアなのだと実感した。



「俺は………ウラ********ヌエ*です」


「…うら? ぬえ…?」

「あの…ちょいと、もう一回言ってくれます?」



向日葵の頭に疑問符がいくつか浮上する。

男性の発した名前の発音が独特で…聞き取りづらかった。

仁王も同じで、復唱してほしいとリクエストするくらいだ。



「ウラルトゥーゴ・ノイ・ヌエフさんですね」

「「聞き取れてる!?」」



普賢が正確に彼の名前を口にしてくれたおかげで、二人はようやく男性の本名が分かった。



(…長い名前だなぁ)



よく漫画などで、普段は略したニックネームで呼ばれている人物が、

フルネームがやたら長かったりするケースがある。

また、実在する歴史上の人物にも該当する例がある。



(前に、お父さんの書斎にあった本に書かれていたっけ…

正確には、思い出せないけれど)



時間をかけて、紙を見ないと読めない非常に長いフルネームだった記憶がある。

目の前にいる男性は、まだ暗記すればいけそうなレベルかもしれない。



「なんや長ったらしい名前やなぁー。

すまんけど、兄ちゃん…あだ名でええか?」


「あっ、それなら…俺の事は『ウーゴ』って呼んでください」


(あっ、すごく分かりやすくなった)

(ヴィンセント、ナイスじゃ)



「略したネーミングで呼んでいいか」というヴィンセントの提案のおかげで、

名前を途中で間違えずに済みそうだ。

内心、ヴィンセントへ感謝しながら、向日葵達は男性…ウーゴへ視線を戻す。



『【ウーゴ】とやらよ、普賢殿の領域に侵入した理由を聞かせてもらおうか』

「は…はい…」



暁の眼力に気後れしたウーゴは正座をしたまま、ぽつりぽつりと事情を説明し始めた。



「もともと、俺は…此処とは違う場所にいたんだ」



ウーゴはある世界に住む住民であり、複雑な事情(この辺は本人が話したくない雰囲気だったので、

ぼかす事を普賢が許可した)により、ある特殊な場所で守護者の役目を負っていた。


きっかけは、今から半年前の事。

ウーゴが住む世界に、いくつかの流れ星が落ちた。

彼は、世界のところどころに異変が起きている事に気付き、調査していた。


そんな時、ウーゴ自身にもある変化が起きた。

…夢の領域を渡れる能力が開花したのだ。



「…理由は分からないんだ。

その能力がどんなものかを検証していく内に…普賢さんの夢の領域に辿り着いてしまった」


「なるほど…そういう事だったんですね」


「なぁ、それならなんですぐに普賢の兄ちゃんと接触せんかったんや?」



普賢が相槌を打つ傍らで、ヴィンセントが解せぬという気持ちを露わに、疑問を投げつけてきた。

「確かに…」と向日葵も思った。


夢の領域に迷い込んだ当初なら、まだ警戒して相手の出方を見てしまうのは理解できる。

けれども、この領域に通い続けて半年も経過しているなら、普賢の人となりもある程度は分かっているはず。


何故、ウーゴは隠れるように彼の事を観察していたのだろうか?



「あの…俺は…その…」



ウーゴが視線を斜め下に逸らして、言葉を途中で止めてしまう。



(…どうしたんだろう?)

「…なんや、言いとうない訳でもあるんか?」



挙動不審なウーゴの態度に、向日葵は不思議そうに首を傾げ、ヴィンセントと仁王は胡乱な視線を送る。



「ウーゴさん、遠慮しないでいいですよ」



普賢は優しい笑みを浮かべつつ、ウーゴにゆっくり話してくださいと勧める。

そして、ウーゴは意を決したように口を開いた。



「…俺…他人と積極的に対話するのが得意じゃないんです」


「えっ…」「はっ…?」「んん?」


「眼鏡とマフラーをつけてるのだって、視力が悪かったり、寒いからじゃないんだ。

昔から、他人と目を合わす事が苦手で…

目元と口元を隠せて、外界と遮断されている感じがして落ち着くから…

そんなわけで、初対面の普賢さんに…

話しかけたくても、そんな大胆な事ができなかったんです…」



すみません、と二度目の謝罪をするウーゴ。



「「「…………」」」



理由を聞いた向日葵、仁王、ヴィンセントの間に沈黙が走る。



『つまり、お前は人とのコミュニケーションに苦手意識があるのか』

「…仰る通りです」



暁の問いかけに、ウーゴはか細い声で即答する。

なんとも言えない空気が周囲に拡散していった。



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