第2章【11】舞い散る花々と、仕掛ける罠


準備は整った。

あとは…実行するのみ。

普賢は視線で向日葵へ合図を送る。



「アナちゃん、よろしく」

「はい!―――《封印解除―レリーズ―》!



向日葵は杖を出現させて、一枚のクロウカードを取り出した。



「果樹園いっぱいに花の雨を降らしたまえ。

―――【花(フラワー)】!」




光を帯びて輝き出したカードから、ウェーブがかった髪と中性的な顔立ちをした青年が現れた。

にこりと笑うと、くるくると優雅に踊りながらさまざまな種類の花々を降らせ始めた。



「あれが【クロウカード】の能力…」


「向日葵が持っとるカードのひとつの力じゃ。

他にも色んなタイプのヤツがある」



クロウカードの魔法を初めて目にした普賢は、興味深そうに見つめる。

仁王が説明すると、彼はへぇ…と目を輝かせながら相槌を打つ。

【花】はたくさんの花々を生み出し、それらは真下へ降り注いでいき、

地面を色鮮やかな舞台へ変えていく。



「うん、いい調子に積もってきているね」

「…花の香りも充満してきたのう」



時間が経つごとに花の量は増えていき、七分後には土の色が完全に見えなくなってしまった。

…徐々に積み重なっていく花の山。

いや、どちらかといえば海に近いかもしれない。

この状況こそが、普賢と向日葵が計画した犯人捕獲作戦だ。



「普賢さんと話し合った結果…この作戦を思いついたんです」


「果樹園内で犯人を確実に捕まえるためには、僕の宝貝と向日葵ちゃんの魔法を使ったら

90%の確率で成功する方法…」


「名付けて【花の海・大作戦】です!」



自信満々にガッツポーズする向日葵とにこやかに笑う普賢。

双方を見て、そのまんまなネーミングじゃな…と仁王は生温かい笑みを浮かべる。



「それにしても…他にもカードがある中で、よくこういうユニークな方法を思いついたね」

「実は、妹が同じカードを見つけた時のハプニングを参考にしたんです」



同じくクロウカードを探している妹が運動会の時、賑やかな事が好きな【花】によって

学校の校庭が花弁で埋め尽くされる事件に遭遇した。

犯人をできる限り傷つけずに捕まえたいという普賢の意見を聞き、向日葵はその事を思い出した。


下手に攻撃性の高いカードを使うよりも、リスクが低い…

そう考えて【花】のカードを使う選択をしたのだ。



「犯人が魔法や特殊な能力があるヤツだった場合は?

空飛んで逃げる可能性があるじゃろ」


「そこで僕の出番。この宝貝【太極符印】を使って、犯人の能力を制限しておいたよ」


「ちょい待ちんしゃい、いつそんな事したんじゃ?」



犯人と直接接触していないのに…どんな技を使用したのか?



「毎回、訪れる犯人の行動パターンを【太極符印】に記録しておいたんだ。

あと、犯人は逃げるのは得意だけど、痕跡を消す事は苦手みたい」



仁王の疑問に、普賢はふふっと口元を綺麗な弧を描いてその答えを告げる。

おかげで、残された情報から犯人の特徴を把握する事ができた。



「入手した情報をもとにシミュレーションしていって、犯人に飛行能力がある場合は

重力を操って、一定ラインまでは上昇できないように調整しておいたんだ」


「さすがに、それまずいんじゃ…?」



犯人が大量の花の中に沈んでしまって、大変な事態に陥るのでは…という不安が胸を過る。



「ああ、大丈夫。犯人がカナヅチでも溺れないように、花の海の中でも呼吸できるよう

宝貝で細工しておいたから。

それから暁さんにも、相手が身動きが取れない場合は救助するようにお願いしているし…

命を取るなんて真似は極力したくないからね。

相手の人が恩を仇で返すなら、話は別だけど…」



にっこりと笑う普賢に、薄らとブラックな一面が垣間見えた気がした。



(うわっ…この人、舐めたらあかんタイプなり)



…単なる甘ちゃんな平和主義者ではなさそうだ。

仁王は冷や汗を流しながら、普賢に対する認識を改めた。




――――…けて…だ……れ…か……



その時…微かに人の声が木霊した。



「!? 声が…」

「近くにいるね」

「…という事は…」



三人の視線が、カラフルな花々で彩られた地上へ注がれる。

すると、東側の山盛りの花の一部がぶわっと炎に包まれて焼失した。



「あの炎…!」「おー…久しぶりじゃな」



向日葵と仁王は、突如出てきた炎に見覚えがある。

その術を操る主に何度も助けられているからだ。



「「暁(さん)!」」



周囲の花々を焼失させて、姿を現したのは暁だった。

そして、彼の真後ろに倒れている人物が一人。



「あの人が…犯人…?」



上空から、その犯人と思わしき人物を向日葵はジッと見つめる。



「そのようだね」



普賢は神妙な面持ちでそう呟くと、暁達のいる場所へゆっくりと降下していく。

彼に倣う形で、向日葵と仁王も降りる事にした。



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