第2章【9】会談と遅めのランチは休憩室で
画面は、全体的に透明な水色で染まっていた。
「海…?」
「いや、プールか?」
「あ、中に人がおるで!」
巨大な球体の水槽の中に複数の人々がいた。
それぞれ二つの陣営に分かれており、ボールをパスしたり、奪い取ったりと
…まるで、スポーツをしているようだ。
『ふむ…これは何という競技だ?』
「【ブリッツボール】、この世界ではメジャーなスポーツだよ」
電話連絡を終えたダンが、そのスポーツの説明をしてくれた。
【ブリッツボール】は、【クロト=メグスラシル】では有名な球技のひとつ。
特殊なプールの中で、二つのチームで競い合う。
選手は、『フォワード』、『ミッドフォルダー』、『ディフェンダー』、『キーパー』といった
それぞれのポジションにつき、相手選手とボールを奪い合い、自陣のチームのゴールを守りつつ、
相手チームのゴールにボールを入れていく。
点数をたくさん獲得した方が勝利。
いわば、サッカーと水球をミックスした感じのスポーツである。
「水中のスポーツ…」
「長時間おって苦しくないんかな?」
「このプールは窒息しない造りになっているから、その点は問題ないよ。
…とはいえ、水中でスムーズに活動できるように選手は常日頃から訓練しているけどね」
ダンの解説を聞きながら、向日葵達は【ブリッツボール】の試合を観戦する。
軽快でポップな音楽がBGMとなり、試合の雰囲気を華やかにしている。
≪ザック選手、ゴール!
【グラビティ・アビス】チームに一点加算されたァアア!≫
実況中継のアナウンサーの声が、BGMに負けない位の音量で響き渡る。
今日の対決は、【グラビティ・アビス】と【アストラル・ウィルド】という名前の二チームの試合である。
現在、二 対 一で【グラビティ・アビス】の方が有利な状況だ。
≪ザック選手がボールをキャッチ!
このまま突っ走るか…おっと! 【アストラル・ウィルド】のパウロ選手が立ち塞がった!≫
≪パウロ選手、得意のタックルでザック選手からボールを奪った!≫
水中で繰り広げられる試合は、白熱していく。
簡単なルールを覚えた向日葵達も、その試合の流れを見ていくにつれて、
どんな結果になるのか…目が釘付けになっていく。
「………」
「夢中になってるね、彼は何かスポーツを嗜んでいるのかな?」
「雅治先輩は、テニス部に所属しているんです」
画面から視線を外さない仁王。
その様子が気になったのか…
ダンが質問すると、向日葵は彼が中学校のテニス部のレギュラーである事を明かした。
ジャンルは異なるが、初めて目にするスポーツの試合は、仁王の心の琴線に触れたのだろう。
…その証拠に、テニスの試合時のように、真剣な表情を浮かべている。
「この調子だと、【アビス】ちゅーところが勝ちそうやな」
『四 対 二…時間的に形勢を変えるには微妙な差だな』
ヴィンセントと暁が流れを見ながら、試合の結果を推測しあっている。
素人である向日葵の目から見ても、【グラビティ・アビス】のチーム全体の能力は
【アストラル・ウィルド】よりもやや上だと分かる。
制限時間も残り十五分…逆転をするには時間が足りないと思えた。
「果たしてそうかな?」
ヴィンセント達の意見に異を唱える人物がいた。
連絡を終えて、PHSをテーブルに置いたリーシェだ。
「それは…負けとる方にはまだ隠し玉がある…っていう意味ですか?」
フフフッと笑い声を漏らすリーシェに、仁王が恐る恐る質問を投げかけている。
…向日葵は今更だが気づいた。
仁王が、ダンやリーシェに対して敬語を崩さずに話しているという事を。
彼は、大人であろうとため口で歯に衣着せない言い方をするタイプなのだが…
二人に対しては慎重に言葉を選んでいる節がある。
(あとで訊いてみようかな…?)
≪おおっと! ここで選手交代だぁあアアア!!≫
向日葵の思考を中断させたのは、アナウンサーの大声だった。
視線を画面へ戻すと、プール外の会場が弾けたように喧騒に包まれていた。
「なんや、なんや…場の空気が盛り上がってきたでぇ~!?」
『選手交代は【アストラル・ウィルド】の方だが…』
『フォワード』の一人が相手チームのタックルで、肩を負傷したようで監督らしき人物から
交代の要請があったようだ。
そして、その選手と入れ替わる形で、新しい選手が水中へと入場する。
すると、BGMがポップ調からヘビメタル調の曲へ切り替わった。
≪きた、キタ、来たぞぉおオオオ!
【アストラル・ウィルド】のエース、ティーダ選手ぅうううう!!≫
アナウンサーが興奮しながら、その選手の名を口にした。
小麦色の肌、金髪で青い目をした健康的な青年だ。
外野にいる観客の反応の大きさや、相手チームの選手達の間で顔が強張ったり、
緊張感が増している様子。
そういった点から、向日葵は『ティーダ』と呼ばれる青年は、かなり凄い選手なのだと感じ取った。
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