第2章【8】目覚めた先は…異世界の病院
遡る事五時間前、意識を失った向日葵に仁王達は騒然としていた。
「向日葵、向日葵!」
「しっかりせい、向日葵!」
「ど、どうしよう…こういう時は『お医者カバン』を…」
仁王は焦っていた。
向日葵が、普賢を目覚めさせようとして、逆に異変が襲いかかってくるなんて…
こんな事なら、自分が代わりに叩き起こせばよかったと痛感してしまう。
それから、ドラえもんが四次元ポケットから『お医者カバン』を取り出して、
向日葵の額に聴診器を当てた。
「どうや? 症状分かるんか?」
「ちょっと待ってて…」
ヴィンセントが不安そうに尋ねると、ドラえもんはお医者カバンの診断が出るのを待つように言った。
数分後、お医者カバンが下した診断は―――
【診断結果:失神しています。
危険性は極めて低いタイプのものですが、念の為に最寄りの医療施設を受診してください】
「ほっ…命を脅かす症状でなくてよかった」
「そやな…でも、『病院いけ』って言うたってなぁ…」
ヴィンセントが、困った表情を浮かべて腕を組む。
診断通りに、病院へ行くためには一度通ったながーい道のりを引き返さなくてはならない。
「俺が担ぐ」
仁王はすぐに向日葵を背負った。
例え、帰り道が困難でも一刻も早く恋人を安全な場所へ移動させたい。
『問題は、現実世界へ繋がる入口へどう辿り着くかだな』
《―――それなら問題ない》
暁の口にした問題に対し、聞きなれない声の…『誰か』が返答した。
「だ、だれや!?」
「どっから声が…」
『…気配を感じない』
ヴィンセント、仁王、暁が警戒する中、ドラえもんだけはその声に目を見開いた。
「その声……ダンさんですか!」
《―――その通り》
名を呼ばれるや、その人物は姿を現した。
「ようやく見つけた…と思ったら、またややこしい事態になってるな」
ダンと呼ばれた人物…青に近い長い銀髪、背の高い男性であった。
服装が黒装束の上に、特製のベストを纏っている
「に、忍者や!?」
ヴィンセントの言う通り、その姿は、まるで忍者のようだ。
ダンは、騒ぐ外野をよそにドラえもんに尋ねる。
「ドラえもん、状況を説明してくれないか?」
「はい。僕がこの結界を見つけて…」
ドラえもんが大まかな説明をすると、ダンはその場にいる面々へ視線を巡らせていく。
「まずは、我々の同胞があなた方を巻き込んだ事をお詫び申し上げます」
ダンは真摯な態度で、謝罪を口にした。
ドラえもんも倣うように、深く頭を下げる。
「意識を失ったそちらのお嬢さんの治療も含めて、早くこの空間から離れましょう」
「できるんですか!?」
その言葉に、向日葵を背負った仁王が詰め寄る。
「はい。だが、その前にやるべき事があるので…ドラえもん」
「分かりました!」
ダンの呼びかけに、ドラえもんは敬礼して返事をすると、四次元ポケットを掴むと声をあげた。
「ミニドラー、出番だよー!」
「「「ドララ~!!!」」」
すると、四次元ポケットの中から赤・黄・緑・橙・茶・紫・水色の七色のミニドラ達が
わきゃわきゃと溢れるように出てきた。
「うおっ!」
「うわぁ…てんこもりやなぁ」
『ドラえもんには分身体がいるのか…』
凝視する仁王、ヴィンセント、暁を気にする様子もなく、多数のミニドラ達は眠る普賢を
わっせいわっせいと、こちらの方へ慎重に運んできた。
「はい、そこでストップ。そのままジッとしててね」
ミニドラ達がダンの傍まで近づくと、ドラえもんが待機するように指示した。
「準備できました。ダンさん」
ダンを中央に、取り囲む形で仁王達は立っている。
「よし、皆さん…その場から離れないで。
今から移動準備に移ります」
ダンは、両手でぱぱっと素早く印を組んで詠唱しだす。
すると、仁王達のいる地面の真下に薄紫色の魔法陣が出現した。
「こ、この魔法は…!」
驚愕するヴィンセントの様子から、ダンが唱えている魔法が珍しいタイプなのだと仁王は感じ取った。
さりげなく訊こうとしたちょうどその時…
「我が望みし、彼方の場所へ導きたまえ
――――『移送方陣』」
ダンの詠唱が終わり、真下の魔法陣が輝きを増していく。
光柱が発生し、仁王達は光に包まれていき、小さな粒子となって、一直線に駆けだしていく。
真っ白な視界を覆われて、仁王は一瞬何が起きたのか分からず混乱した。
恋人である向日葵だけは守ろうという意識があったのか、彼女を手放さないよう努めた。
「お待たせしました」
「皆、着いたよ」
ダンとドラえもんの言葉に、仁王達は瞑っていた眼をゆっくり開けた。
「おぉ…!」
「こ、ここどこや!?」
視界に広がる景色に、仁王は感嘆の声をあげる。
ヴィンセントは、やや困惑した様子で見慣れないその場所へ視線をあちこち向けていく。
「ようこそ、【クロト=メグスラシル】へ」
ドラえもんが歓迎の言葉を口にする。
それで、彼等はようやく気付いた。
―――此処が【異世界】であると…。
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